薄暗い夜道で空腹を抱え歩いていると、真新しい料理店を見つけた。
ネオンの看板には「セルフサービスレストラン」と書かれている。
入り口は無人で、自動ドアをくぐると、中には無機質なタッチパネルが並んでいた。
僕は空腹に急かされ、画面をタップした。
『ようこそ。最適な料理をご案内します。あなたの状態をお答えください』
まず初めに、妙な質問が表示された。飲食店で「状態」を確認されるとは。
『あなたの空腹レベルは?』
僕は迷わず「極度に空腹」を選んだ。
次の画面が表示される。
『肉料理と野菜料理、どちらを希望しますか?』
躊躇なく「肉料理」を選択した。すると、パネルの表示はどんどん具体的になっていった。
『下ごしらえをします。肉の柔らかさを選択してください』
「もちろん柔らかく」だ。
だが次に表示された項目に、僕は違和感を覚えた。
『肉質向上のため、マッサージを行いますか?』
なぜ料理にマッサージが必要なのか疑問だったが、とりあえず「はい」を選んでみた。
すると、背後の壁が静かに開き、柔らかな機械アームが現れて僕の肩を掴んだ。
「なんだこれは!」
驚いて振り払おうとしたが、アームは絶妙な力加減で僕の身体を揉みほぐし始めた。確かに気持ちよかったが、僕は妙な予感に襲われた。
マッサージが終わると、次の表示が点滅している。
『風味付けをします。好みの調味料をお選びください』
塩、胡椒、醤油……。
ここまでの経緯でなんとなく嫌な予感がしたが、試しに「塩」を選んだ。その瞬間、上から微細な塩の粉末が振りかけられた。
「ま、まるで――自分が料理されるみたいだな」
『調理方法をお選びください』
焼く、蒸す、煮込む、揚げる。
背筋が凍った。先ほど塩を選んだら塩が降ってきた。ここで調理方法を選んでしまうと――これは明らかにおかしい。
僕は慌ててキャンセルボタンを探したが、画面には調理法以外、表示されていない。
恐怖で息が詰まりそうになりながら後ずさりした瞬間、タッチパネルの画面が赤く変わり、新しい文字が表示された。
『最高のおもてなしをさせていただきます』
扉が全てロックされ、逃げ場がないことを悟った僕はパニックに陥った。
「誰か助けてくれ!」
叫んだそのとき、突然店内の電気が明るく点灯し、スピーカーから陽気な音楽が流れ始めた。
『ご来店ありがとうございます。本日のメニューはやわらかい人間の肉でございます。シンプルに塩のみで味付けされておりますので、肉そのものの風味をご堪能いただけます』
最後に表示された画面には、自分の名前とともに『調理開始』の文字が。
僕はその場に崩れ落ちた。
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