それは、黄金月の12日だったかのう。王都を騒がせていた大空の火竜・バルバルガを、ついに倒したってニュースが広まったんじゃ。
倒したのは、五人組の冒険者パーティ「煌滅旅団」—— 剣士に魔法使い、僧侶に盗賊、あと何を間違ったのか、会計士がいた。
そう、その会計士・ミルゴが、今回の騒動の火種じゃった。
倒した翌日、王宮から「討伐報酬金 一万金貨」が支払われた。 普通ならそれを仲良く五等分して、はい終わり……なんじゃが、ミルゴは違った。
「はい、ちょーっと待った! 内訳を精査してから分配します!」
彼が出してきたのが、討伐費用精算報告書じゃった。 ざっと読むとこんな感じじゃ。
【バルバルガ討伐 任務収支明細書】
・武器修繕費:250金貨(剣士リオンの「うっかり崖から落下」による損傷分含む)
・魔法触媒費:300金貨(魔法使いアルミラの杖)
・緊急治療費:500金貨(僧侶フローネのポーション使いすぎ・補填)
・索敵道具代:100金貨(盗賊ギルの地図入手のための費用各種)
・相談料:200金貨(会計士ミルゴ本人へのコンサル費)
・特別手当:150金貨(ミルゴが夜間、火竜の夢を見て精神的被害を受け体調不良。治療費)
・その他雑費:50金貨(正体不明)
これに対し、剣士リオンが吠えた。
「なんでお前の夢まで俺らの費用になるんだよ!?」
魔法使いアルミラも怒った。
「魔法使いの杖はリユース可能よ!? 会計士なんだから減価償却くらい知ってるでしょ!?」
僧侶フローネはなぜかポーション瓶でミルゴを小突き、 盗賊ギルは自身の苦労を誇示するように地図をテーブルに置いた。
ミルゴは怯まず言い返す。
「いいですか。モンスター討伐というのは、リスク管理がすべてなんです! 君たちは刃を振るったが、私は帳簿をつけた! その価値を軽んじるとは言わせませんぞ!」
その言葉に誰もが口をつぐんだ。なぜなら、実際、彼の記録がなければ王宮に請求すらできんかったからじゃ。
「これだけお金がかかったんです」と、恐れることなく王宮に帳簿を提出したのはミルゴじゃった。それまでパーティの誰一人、かかった金額や報酬を請求しようなどとは思いもつかなかったのじゃ。
じゃが、アルミラが言うた。
「わかった。純粋な報酬と経費は別にするべきだわ。報酬から経費を差し引いて、残りを均等に分けましょう」
ミルゴはううむとうなって考える。
「……なるほど、確かに。それが正しい」
「認めるのかよ!」
「それなら早く計算しなおして!」
「ちょっと待って。先に怪しい経費を洗い出そう。雑費って何なんだよ。完全に使途不明金じゃないか」
「あとさ、精神的被害は消しとけよ。夢ごときで費用を使われんなら、対峙した俺たちはなんなんだよ」
——そんなこんなで会議は丸一日続いたんじゃ。
経費を引いて残りを分けるところまでは、全員が同意したんじゃが、問題はその経費だった。
それは経費とは認められないとか、それなら他にかかった経費があるから出してほしいとか、領収書がないからできないとか、もめにもめた。
しまいには怒ったリオンが剣を振り上げ、テーブルを破壊。アルミラが魔法を炸裂させ、宿の一部を炎上させた。
その結果、再度ミルゴがこう書き加えた。
・戦闘損害補填:300金貨(テーブル他家財弁償費)
・宿の修繕費用:800金貨
・仲直り会食費:50金貨(全員でちょっといいごはん)
そして分配金の差額は「パーティ積立金」としてミルゴが革袋にしまった。次のモンスター討伐に使われるという名目なんじゃが、みんなミルゴを疑いの目で見ておった。
じゃが、数日たつと、みんなそのいざこざを思い出し笑ってたんじゃと。何しろ、あの火竜を倒したあとに、 一番手こずったのが「お金の分け方」じゃったんじゃからな。
このパーティでは事あるごとに思い出しては、笑い話として何度も語られたそうじゃ。モンスターを倒すよりも難しいのは、金と人間関係じゃな。
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