あの日、僕は時空警察の新人で、時空観測室のモニター番を任されていました。先輩たちはみんな出動中で、僕一人だけ。そんな時に限って、異常が発生するんですよね。
モニターに映ったのは、紀元前300年頃のギリシャ。大哲学者アリストテレスが街角で何やら議論をしている場面でした。でもその後ろ、明らかに時代にそぐわない光るスーツの男が映ってる。ああ、タイム犯罪者だってすぐ分かりました。
僕は慌てて対応しようとしましたよ。けど先輩の指示を仰ぐには時間が足りないと思ったんです。これが大間違いでした。
新人用の緊急転送装置で現場に飛んだ僕は、犯罪者を追い詰めるつもりが、うっかりアリストテレス先生にぶつかってしまったんです。しかも、持ってた石板を壊しちゃって。後で分かったんですが、それ、彼の有名な理論の草稿だったんですよ。しかもアリストテレス先生は転んだときに頭を打ってしまったみたいで……。
その結果、彼の後世への影響が狂い、哲学史全体がガタガタに。近未来の技術進化にすら影響が出て、時空警察の本部自体が存続危機に陥りました。
幸い、上司たちが修正作業をして事なきを得ましたが、僕は「アリストテレス消滅事件」として語り継がれる失敗の主役になっちゃったわけです。別に消滅してなかったですけど。確かに彼の功績の多くが消えかけたわけなんであながち間違ってはいない……のかも? とにかくそれ以来「勝手に動かない」が僕の鉄則です。
時空警察の新人に会うたび、この話をして注意を促すようにしています。まあ、僕みたいな失敗者、二度と出てほしくないですからね。
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