ちいさな物語 #099 魔王の誕生の日 勇者エリックは、血まみれの剣を握りしめ、玉座の間に立っていた。目の前には、ついに追い詰めた魔王ヴァルゼード。長きに渡る戦いに終止符を打つ時が来た。「ついに貴様を倒す時が来たぞ、魔王!」エリックは剣を構える。魔王は深いため息をつき、玉座にもた... 2025.03.06 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #098 遠い砂漠の湖の歌 砂漠の夜は静かだった。風が砂丘をなめる音と、ラクダのかすかな鼻息。カリムは焚き火を見つめながら、遠くから聞こえる不思議な音に耳をすませた。それは水音だった。この砂漠に水場はない。旅人なら誰もが知っている。だが、確かに聞こえる。ざぶん、ざぶん... 2025.03.06 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #097 ポイント人生 目が覚めた瞬間、頭の中に奇妙な声が響いた。──「おめでとうございます。あなたは人生三周目に突入しました」何だ? 俺は、今、生まれたばかりなのか? 意識だけがはっきりしているが、身体は動かない。赤ん坊だからか? いや、違う。手を見れば、しっか... 2025.03.05 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #096 温めますか? コンビニのレジで、店員の山崎がいつものように尋ねた。夜も遅くなると必ずといっていいほど「温め」が必要なお客がやってくる。そして山崎は「温める」のが嫌いではなかった。たまに失敗もするが、最近は相手の様子をちゃんと見ながら温めれば大きなしくじり... 2025.03.05 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #095 真夜中のコインランドリー 深夜に洗濯物を抱えてコインランドリーに入ると先客がいた。こんな時間に人と鉢合わせるのはめずらしい。 男は椅子に座り、手元のスマホをぼんやりと眺めていた。年齢は30代後半くらい、やや痩せた体型で、無精ひげが伸びている。 僕は洗濯機に服を放り込... 2025.03.04 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #094 銀色の親友 俺がそいつと出会ったのは、山道の途中だった。「おい、人間。少し手を貸せ」振り向くと、そこには二足歩行の狼がいた。いや、正確には獣人というやつだろう。狼の頭にたくましい体、しかしその毛並みは不思議なほど滑らかで、銀色に輝いていた。「……しゃべ... 2025.03.04 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #093 きみの背中 何度も同じ夢を見るようになったのは、ちょうど一年前のことだった。夢の中で、きみは僕の前を歩いている。白いワンピースの裾が、ふわりと揺れる。「待って」呼びかけても、きみは立ち止まらない。それどころか、少しずつ遠ざかっていく。僕は必死に追いかけ... 2025.03.03 ちいさな物語恋愛
ちいさな物語 #092 言い訳の数 「被告人、あなたは万引きの罪で起訴されていますね?」裁判官の問いに、被告の男は堂々と答えた。「いえ、あれは不可抗力でした。」「不可抗力?」「そうです。ちょうどその日、私のズボンのゴムが緩んでましてね。歩いていたらスルスルっと下がってきたんで... 2025.03.03 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #091 運河をゆく箱 夜の運河は静かだった。黒々とした水面を切り裂くように、小さな舟がゆっくりと進む。船頭は無言で櫂を操り、客はじっと足元の箱を見つめていた。木箱は膝ほどの高さで、ずっしりと重そうだ。縄で厳重に縛られており、持ち主の男はそれを自分の手で舟へと運び... 2025.03.02 ちいさな物語不思議な話
SF #090 ネオン街のヘンゼルとグレーテル ナイトシティのスラム街。そこに生きる者は皆、飢えと暴力に耐えながら暮らしている。ヘンゼルとグレーテルも例外ではなかった。「また、食べ物探しに行くの?」妹のグレーテルが、不安そうに兄のヘンゼルを見上げる。「他に生きる道があるか?」二人は孤児だ... 2025.03.02 ちいさな物語SF