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ちいさな物語

#080 死神の鳥

最初に気づいたのは、駅のホームだった。目の前のサラリーマンの頭に、小さな黒い鳥が止まっていた。カラスのように見えるが、もう少し小さい。それにどこか質感が、違う。まるで影が形を成したような、ふわふわとした不確かな存在だった。周囲の人々は誰も気...
ちいさな物語

#079 乙女ゲーム化した高校生活にモブの俺がツッコミ入れていきますね

「いやいや、ありえないだろ」俺は隣の席で繰り広げられる光景に、思わずツッコミを入れた。ここはごく普通の高校。そしてこの物語のヒロイン——橘ひまりは、決して”かわいい”タイプではない。見た目は普通、性格はどちらかというと生意気。気分屋の猫みた...
ちいさな物語

#078 行列の先にあるもの

その日、俺は仕事帰りに駅前の広場を通った。いつもなら通り過ぎるだけの場所なのに、今日は何かがおかしかった。――行列だ。ものすごく長い行列ができている。最初は人気のスイーツでも売っているのかと思った。でも、列に並んでいる人たちはみんなスマホを...
ちいさな物語

#077 雪山で待つ者

山頂を目指していた私は、突如として吹雪に巻き込まれた。冬山では天候の急変が命取りになることを知っていたが、ここまでひどいとは。油断したと認めざるを得ない。視界は数メートル先も見えず、足を踏み出すたびに雪に沈む。体温が奪われ、指の感覚がなくな...
ちいさな物語

#076 回転寿司と回るおじさんの幽霊

回転寿司のレーンに、おじさんが流れていた。寿司の皿に挟まれながら、妙にリラックスした顔をしている。「おっ、トロが来た!」おじさんは隣の皿からトロをつまみ、満足げに頬張った。いや、何食ってんだ。ていうか、なぜ流れてる?俺は周囲を見渡した。だが...
ちいさな物語

#075 マスク社会の裏側で

コロナ禍でマスクは社会の必需品になった。コロナ禍がおさまった現在でも街を歩く何人かが口元を隠し、表情が見えなくなる。そのことを不審に感じる者はいない。皆、慣れてしまっていた。そしてある日、気づいたのだ——街には以前よりも活気が満ちていること...
ちいさな物語

#074 神さまの憂鬱

町はずれの小さな神社に、野良猫がよく集まる場所があった。僕は昔からその猫たちを眺めるのが好きで、暇があればよく通っていた。今日も境内の石段に腰を下ろし、猫たちが気ままに歩き回るのを眺めていた。毛づくろいをする者、昼寝をする者、鳥を狙ってじっ...
SF

#073 鋼の神と電子の記憶

むかしむかし——いや、そう遠くない未来のちょっと先の話だ。その街には、かつて「鋼の神」と呼ばれるものがいた。神といっても、伝説の神々のように天上から奇跡を降らせるわけではない。それは巨大な機械仕掛けの存在であり、この都市を守護するために作ら...
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#072_頭の上に

最初に気づいたのは、コンビニの店員の態度だった。「お弁当、温めますか?」俺の顔を見て普通に聞いてきたのに、次の瞬間、スッと視線が上に動く。そして、何事もなかったようにまた俺の目を見て微笑む。ほんの一瞬のことだ。そんなことはその直後に忘れて二...
ちいさな物語

#071 見たことがある

「もう逃げ場はないぞ!」暗闇にそびえる崖の上、刑事・田村は拳銃を構えて叫んだ。その先に立つのは、指名手配中の銀行強盗犯・柴田。汗だくの顔を歪ませ、肩で息をしながら後ずさる。しかし、もう後ろは崖。ここからの逃亡は不可能だ。「くっ……」柴田は崖...