ちいさな物語 #232 午後三時のミルククラウン 午後三時になると、甘い香りが部屋いっぱいに漂う。最初に気づいたのは、休日の午後だった。 ちょうどコーヒーを淹れながら、冷蔵庫にあったプリンを食べようとした瞬間、背後から声がした。「こんにちは、おやつの精霊です!」振り返ると、そこには紅茶色の... 2025.05.12 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #231 水曜日のポケット 「水曜日のポケットには、ちょっとした秘密があるのよ」そう言ったのは、祖母だった。わたしがまだ小学四年生だったころのことだ。祖母とわたしは、古い町にある小さな洋館にふたりで暮らしていた。町の人たちはみんなやさしく、毎日がのどかで、でもすこし退... 2025.05.11 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #230 転生したらパーティにコンビニ店員がいた件 「転生です、おめでとうございます」白い空間で、ローブ姿の女神らしき人がそう告げた。よくある異世界転生モノだ。事故で命を落とした僕は、第二の人生を歩むらしい。「ではスキルを選んでください。剣? 魔法? 錬金術? 他に希望があれば、対応できるか... 2025.05.11 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #229 愛なき者 朝、目覚めたとき、部屋の空気が少し違っていた。テレビをつけるとニュースキャスターがにこやかに言っていた。「おはようございます。愛しています」それを受けて、司会者、ゲストらしき人々も次々に「おはようございます。愛しています」、「愛しています」... 2025.05.10 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #228 怪談メーカー 「退屈なあなたの町にも怪談を。」そんなキャッチコピーの書かれたパッケージを、僕は手にしていた。『怪談メーカーキット』——ネット通販で見つけた怪しげな商品だ。商品紹介欄にはこうある。「設置するだけで、あなたの周囲に『それっぽい怪談』が自然発生... 2025.05.10 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #227 うちの神様が一番かわいい 大学の夏休み、久しぶりに実家の神社へ帰省した。「おかえり、悠斗」母が穏やかな笑顔で迎えてくれる。境内の掃除や参拝客の対応に追われる両親の姿は昔と変わらない。しかし、ひとつだけ僕が知らなかったことがあった。それは、うちで祀っている神様について... 2025.05.09 ちいさな物語不思議な話
SF #226 ほしから来たひと あんたに話しておこうかね。この村の話さ。もう、誰も覚えていないかもしれんけど、あたしゃちゃんと見たんだよ。忘れるもんかい、あんな人。あれは、わしがまだ小娘だったころ――そうさね、戦のあとで、村にもやっと灯りが戻ってきたころだよ。ある晩、山の... 2025.05.09 ちいさな物語SF
ちいさな物語 #225 狐面売りの男 祭りの夜は、人々が浮かれているせいか、普段とは違った空気が漂っている。夏の生温かい風に乗って、屋台から流れてくる甘ったるいベビーカステラの匂いやイカ焼きの香ばしい匂いが鼻をくすぐった。僕はひとりで、人混みの隙間を縫うように歩いていた。毎年こ... 2025.05.08 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #224 水曜日だけの魔法使い 僕の能力は週に一度、水曜日にだけ使える。名前は『ウィークデイ・ウィザード』。中二病全開の名前だが、実際のところ、あまり役に立つ能力ではない。月曜や火曜に襲われても何もできないし、木曜や金曜に困っている人に出会っても、助けることすらできない。... 2025.05.08 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #223 眠れぬ夜の博物館 静かな街に、時計台が十二時の鐘を響かせた。月明かりの下、僕は深呼吸をして、そっと博物館の門を押した。ここは、子供の頃から僕が一番好きな場所だった。昼間は人々で賑わい、笑い声と足音が絶えないが、真夜中には何かが起きるという噂が密かに広まってい... 2025.05.07 ちいさな物語不思議な話