ちいさな物語 #220 現代版・稲生物怪録 最初に部屋に現れたのは、髪の毛をだらりと垂らした若い女だった。深夜の一時、男はベッドでスマホの画面を眺めていた。部屋の隅から女が這い出し、ゆっくりと近づいてくる。だが、男はスマホをスクロールしながら、彼女にちらりと目をやっただけで呟いた。「... 2025.05.06 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #219 世界を救った臭い靴 「靴を脱げ、勇者よ!」長老の真剣な声が響くと、僕は困惑した表情で自分の足元を見た。靴?「早く、その靴の臭いで世界を救うのじゃ!」「いや、待ってくださいよ。何を言ってるんですか?」そう言い返した僕の前に、黒い霧のような怪物が迫ってきた。目の前... 2025.05.05 ちいさな物語異世界の話
SF #218 新天地の孤独 目覚めた瞬間、僕は凍えるような寒さと眩しい光に包まれていた。意識が少しずつ鮮明になり、ゆっくりと目を開ける。薄暗いキャビンの中、コールドスリープのカプセルが整然と並んでいた。「乗務員ナンバー14、目覚めを確認。おはようございます、アンソニー... 2025.05.05 ちいさな物語SF
ちいさな物語 #217 夢屋ユメコ 「こちら、お客様の今夜の夢チケットになります」カウンターの奥から女性が差し出してきたのは、淡いピンク色の厚紙だった。“初恋リピート夢:シナリオ型/記憶連動モード/時間:90分” と印字されている。夢を選んで眠る。それは今や、都会で働く人々の... 2025.05.04 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #216 あの角を曲がると、自販機がある その自販機は、決まって夜中の二時過ぎにしか現れない。駅から少し離れた住宅街の裏路地。昼間に歩いても、そこに自販機などない。ただのブロック塀と、ゴミ集積所と、草の伸びた空き地があるだけだ。だが、ある夜、私は残業帰りにその道を通った。ふと、曲が... 2025.05.04 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #215 額の刃 この町の人々は、めったに怒らない。満員電車で押されても、店員に無視されても、上司に理不尽なことを言われても、口元をひきつらせて、じっと堪える。なぜなら、「キレる」と、額が割れるのだ。バカな話のように聞こえるが、実際にそうなる。ひび割れた額の... 2025.05.03 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #214 見える 「ねえ、私、幽霊が見えるんだよ」そう言ったのは、友達の茉莉だった。放課後の教室。西日が斜めに差し込み、机の影が長く床を這っていた。私は茉莉のその言葉に、何も言わずに頷いた。肯定でも、否定でもない、ただの曖昧な反応。「廊下の突き当たり、非常階... 2025.05.03 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #213 神さまの座布団 これはの、わしのばあちゃんが、そのまたばあちゃんから聞いたという話じゃ。昔々、山のふもとに「木長こなが村」っちゅう、小さな村があったんじゃ。田んぼと畑と、ちょっとした神さまがおるだけの、静かなところじゃった。この村ではな、毎年秋になると「神... 2025.05.02 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #212 四つ足 その道は、職場からアパートへの帰り道にある。駅前の明るい通りを抜け、スーパーの裏手を通り、古びた橋を渡って、神社のわきの細道へ入る。そこからが、例の“暗い道”だ。街灯はある。だが、間隔が空きすぎていて、道の途中からは、闇が勝っている。その闇... 2025.05.02 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #211 名探偵の探しもの 探偵・御堂零士みどうれいじと初めて会ったのは、僕が働くカフェ「雨宿り」でのことだった。その日も静かな午後だった。雨が降り出したので、僕は表の看板を引っ込めようとしていた。そこに、濡れたトレンチコートを着た男がふらりと現れた。「温かい紅茶を」... 2025.05.01 ちいさな物語変な話