ちいさな物語 #477 雨の日だけ来る友だち 雨が降ると、彼はやってくる。そのことに最初に気づいたのは、私が9歳くらいの頃だった。梅雨時の薄暗い放課後、家でひとり退屈していると、玄関の呼び鈴が鳴った。覗き窓から見ると、見知らぬ少年が立っていた。青白い肌に黒い雨合羽を着て、髪からは水滴が... 2025.10.16 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #476 悪魔の描かれた部屋の絵 あれは、今でもはっきり思い出せる。静かな雨の日だった。仕事帰り、駅までの近道を探して裏通りに入ったら、古い木造の建物があった。「八重画廊」と小さな看板に書かれていた。窓越しに見えた明かりに誘われて、なんとなく中へ入ったんだ。ベルの音が鳴った... 2025.10.15 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #475 ツッコミは2秒以内 勇者として選ばれたとき、正直、少しだけ泣いた。幼い頃からの夢だったからだ。剣に選ばれ、神託を受け、命に代えても魔王を倒す。それが俺の運命――のはずだった。しかし、初めて仲間と顔を合わせた瞬間、これまでゆるぎなかった自分の運命に疑問を抱いた。... 2025.10.15 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #474 トンネルの中 その子に出会ったのは、本当に偶然だった。あの日、僕は出張帰りで、地方のローカル線の無人駅に降りた。帰りのバスまで時間があって、少し散歩でもしようと駅前の坂道を登っていたときだ。人通りなんてまったくない。途中の古びた案内板には、「隣町へ通じる... 2025.10.14 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #473 降りない人 住んでいるマンションのエレベーターで、いつも乗り合わせる人がいる。それは40代くらいの男性で、特に特徴のない普通の格好をしている。私は自分の部屋のある上の階に行くため、エレベーターを下で待っている。すると、上から降りてきたエレベーターにその... 2025.10.14 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #472 感染した町 あれが始まったのは、去年の秋頃だったと思う。最初に気づいたのはうちの近所の商店街だった。いつも歩いているはずの通りが、ある日、一本増えていたんだ。「え? こんな路地あったっけ?」って感じで。でも、人間というのは不思議なもので、知らない道を見... 2025.10.13 ちいさな物語怖い話
SF #471 宇宙海賊の長い一日 宇宙海賊の仕事ってのは、聞こえほど華やかじゃない。ドンパチして、略奪して、逃げ切って、金を数えて笑う――そんなのは映画の中の話だ。現実は、燃料費と修理費で利益はほぼチャラ。だから俺は、できるだけ効率的にラクして稼ぐのを信条にしている。「――... 2025.10.13 ちいさな物語SF
ちいさな物語 #470 師匠と歩いた五日間 「師匠、さっきも休憩しましたよね?」「うん、したね。でも、また休憩したくなったんだ」いつも通りの返答だった。私は深くため息をついた。私の師匠、フェルディナント・エイグルは、王都でも名の知れた魔法使いだ。いや、一応はそう呼ばれているが、実際は... 2025.10.12 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #469 私は神様 最初にその地図を描いたのは、退屈な授業中だった。私はノートの端に自分だけの地図を描いて遊んでいた。丸い半島、曲がりくねった川、中央に大きな山脈。なんとなく名前もつけた。「レムリア大陸」。それはその時間だけの遊びのはずだった。でも、次の日、ノ... 2025.10.12 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #468 作られた呪物 「なあ、呪いのアイテム作ろうぜ」昼休み、いきなりそんなことを言い出したのは友人の小田だった。「……お前、また変な動画でも見たのか?」「違うって! 『呪物作ってみた』系の動画が流行ってんの! それで俺らもやってみようぜって」変な動画、見てるじ... 2025.10.11 ちいさな物語変な話