kajin-kk

ちいさな物語

#038 除霊会社の専属霊媒師(見習い)

「あー、やっぱこの部屋、気配が濃いなぁ……」先輩は無責任につぶやいた。まるで「雨降りそうだなぁ」くらいのゆるさだ。今日もやる気がなさそうで困る。ここは某不動産会社が「夜な夜な幽霊が現れる」と訴えてきたマンションの一室。私たちは知る人ぞ知る事...
ちいさな物語

#037 焼けないケーキ

俺の名前は翔太。普通の会社員だったが、ある日思いつきでYouTubeを始めた。「素人がケーキを焼く」という企画だ。料理経験ゼロの俺が悪戦苦闘する様子がウケるんじゃないか、と思ったわけだ。最初の動画は、予想以上にひどかった。卵を割ろうとしたら...
SF

#036 終末のハイウェイ

気がついたら、世界は終わっていた。地震があったのか、噴火があったのか、核爆弾でも飛来したのか、一瞬にして疫病が流行ったのか、それらが同時多発的に起こったのか、報道機関も壊滅してしまったので厳密な原因は分からない。ただ、都市は瓦礫と化し、人影...
ちいさな物語

#035 大統領たちの戦場

人類はようやく「戦争」という概念を進化させた。それは命を奪う血なまぐさい戦場ではなく、世界中のゲーマーが戦場となる仮想空間で戦う「デジタルウォー」だった。勝敗によって国同士の領土や資源が動く仕組みで、リアルの犠牲者はゼロ。だが、それが平和と...
イヤな話

#034 赤信号の横断歩道

大通りに面した横断歩道。車の流れが激しく、歩行者信号が赤から変わる気配はまだない。そんな中、スーツ姿の男がさりげなく前に出た。何気ない動作のように見えるが、視線はスマホに夢中の女性に向けられている。彼女は信号が赤だと確認せず、男の動きに釣ら...
ちいさな物語

#033 実況! お弁当戦線

午前の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴ると、俺はすかさずカバンの中の弁当箱を取り出した。「さあ、ついにランチタイムのゴングが鳴りました!」心の中で歓喜の声をあげる。俺はひとり興奮しながら机の上に弁当を広げた。今日は母が作ってくれた手作り弁...
SF

#032 星間トンネル

私は長いことこの旅を夢見ていた。地球から遠く離れた惑星シリウスBまで、一気にワープする宇宙旅行。だが、ただのワープではない。途中には「星間トンネル」と呼ばれる特別な空間があるのだ。星間トンネルとは、宇宙の裂け目を利用して通常の空間とは異なる...
ちいさな物語

#031 後宮の影に咲く花

後宮の暮らしは、美しく輝いているように見えるだろう。煌びやかな着物をまとった妃たちが宮殿を歩き、香が漂う中、静かに時が流れていく。けれど、そこに仕える下女の世界は、泥で濁った沼のようなものだ。誰かが足を取られて沈むのをみんな期待して待ってい...
ちいさな物語

#030 知らない子

いやさ、俺も驚いたんだよ。その夜、残業でくたくたになっていた俺はスマホに留守電が入っているのに気づいた。親から着信が入っていて「今度、お前のところに田舎の親戚の子が行くから、しばらく面倒見てやってくれ」って。いや、俺、仕事忙しいし、何でそん...
ちいさな物語

#029 勇者一行観察日記

まあ、こんなこと人にはあまり言えないけど、私はずっと勇者一行を尾行しているんだ。そう、あの有名な勇者だ。魔王討伐の旅に出たという噂の一団。その行く先をこっそり追いかけ、日々の日記に克明に記している。動機?それはまだ秘密だ。初日、彼らが出発す...