#012 パワハラ課長とカブトムシ

ちいさな物語

最近、うちの課の空気は最悪だ。パワハラが絶えない課長のせいで、社員のやる気は地に落ちている。変なセミナーで感化されて、全員変な体操をさせられたり、A4サイズのコピー用紙いっぱいになるまで社訓を繰り返し書かせたり、査定をチラつかせてやりたい放題だ。

そんな中、ある朝、課長がカブトムシを頭に載せて出社してきた。大きなオスのカブトムシで、光沢のある甲殻がやけに目立つ。みんな今度は何が始まるのかと戦々恐々だ。

何かのセミナーに参加したに違いないと同僚の山岸はすぐさまスマホで最近開催されたビジネスセミナーを検索し始める。

「これからはこのカブトムシとともに課を管理する!」と課長は高らかに宣言した。場がしんと静まり返った。

課長が言うには、虫の王者であるカブトムシから「支配者の心得」を学ぶのだという。冗談かと思いきや、その日から課長の頭には常にカブトムシが鎮座するようになった。

「お前ら、カブトムシのように強くなれ!」と課長は怒鳴るが、頭にいるカブトムシが課長の言葉に呼応するように羽根を広げて震わせるので、みんな必死に笑いをこらえている。そんな中、部下の佐川が勇気を出して言った。

「課長、そのカブトムシ、そろそろ休ませてあげたほうがいいんじゃないですか?」

課長は鼻で笑った。「24時間365日休みなんて必要ない。カブトムシは俺の意志そのものだ!」
ブラック企業か。

しかしそれを聞いたカブトムシが突然羽根をバタバタと広げ、課長の頭から飛び立った。突然の出来事に課長は「待て!」と叫びながらカブトムシを追いかけ始めた。社員全員がその姿を見守る中、カブトムシはオフィスを飛び回った後、窓から外へ飛び去った。課長は呆然とカブトムシの消えた空を見げている。

さすがのカブトムシも休みなしの労働は「ブラック」と判断したか。虫ながら賢明だ。

それ以来、課長はすっかり大人しくなり、パワハラもしばしおさまった。社員たちは密かに「カブトムシさま」と呼び、感謝の念を捧げたという。

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