ちいさな物語 #402 戦場の絵の具 少年がそれを拾ったのは、戦場の外れだった。瓦礫と灰に覆われた大地の隅、泥に半分埋もれるようにして転がっていた古びた木箱。蓋を開けると、中には色あせた絵の具が並んでいた。赤、青、緑、黒。ただそれだけ。しかし、どの色も普通の絵の具とは違う、奇妙... 2025.09.04 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #396 あのとき出会った子供 あれはもう何年も前の話になるな。俺がまだ駆け出しの冒険者だった頃、仲間と共に異世界の荒野を旅していたときのことだ。ある街道沿いの村に立ち寄ったとき、ひょっこり顔を出した子供がいた。 年の頃は十歳くらいだろうか。痩せぎすで、けれど目が妙に澄ん... 2025.09.01 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #395 とある記者の取材記録 俺は記者だ。剣士でも魔術師でもなく、ただペンを取り文章を書くことを生業にしている。要するに「事実を取材し、人々に伝える」のが仕事だ。勇者のように剣を振るう気もなければ、王に仕える気もない。俺が欲しいのは、ただ「よい記事のネタ」だけだ。今回の... 2025.08.30 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #377 霧の街のリィド 霧の街〈リュミエール〉は、今日も灰色に沈んでいた。低く垂れ込めた雲の下、石畳は夜明け前の雨を吸い込み、鈍く光っている。人々は足早に通りを行き交い、影のように家々へ消えていった。そんな中、一人だけ異彩を放つ姿があった。銀色の髪を短く刈り、深い... 2025.08.19 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #369 影喰いの剣 「何か用か? そっちで寝てろよ」レオが焚き火のそばで寝転がりながら、面倒くさそうにぼやいた。俺は苦笑して、その隣に腰を下ろす。「悪いか? お前の相棒の俺がいないと寂しいだろう?」いつものやり取りだ。俺たちが初めて出会ったのは、もう何年も前の... 2025.08.08 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #362 迷宮の宝 迷宮の奥へ進むたび、空気が冷え込み、静寂が耳を刺す。だが私は剣を握りしめ、歩を止めなかった。いまさら引き返すことなどできない。目指すは、どんな病をも癒やすという伝説の宝――。病みついた妹のために絶対に必要なものだった。三日前、村の酒場で老騎... 2025.08.04 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #360 泥だらけの勇者 それは雨上がりの午後のことだった。村外れの道を歩いていると、急に前方の草むらからガサガサという音がして、泥だらけの男が現れた。ぼさぼさの髪、傷だらけで泥まみれの鎧、背中にはいかにも立派な剣。見た目はどう見ても冒険者……いや、それ以上の存在感... 2025.08.03 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #350 今日も勇者が現れない 「魔王が復活したのに、勇者が見つからない」国王が溜息混じりに告げる言葉に、魔法使いである俺は思わず頭を抱えた。いや、それにしたって、なんで俺が行く流れになってるんだ?「申し訳ない、セオドア殿。しかし、頼めるのはそなたしかおらぬ」国王は苦々し... 2025.07.29 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #315 魔法の使えない魔道士と飛べないドラゴン シルグは、村一番の役立たずの魔道士だった。幼い頃から魔力の才能に乏しく、いつも魔法を失敗しては笑われ、誰からも馬鹿にされた。村の者たちは呆れて言ったものだ。「お前の魔法なんて、風に揺れる葉っぱほどの役にも立たないな」だから彼が村を飛び出し旅... 2025.07.05 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #307 虹の終点、ランティス渓谷で 僕らの旅は風まかせ。一応、冒険者を名乗っているが、危険なことは一切しない。いつも前を歩くのは快活なカナ、風景をスケッチするのは双子の妹のリナ、そして僕――地図と胃袋を預かっている。ほんのちょっとだけ剣が扱えなくはないが、この旅に出てから一度... 2025.07.01 ちいさな物語異世界の話