異世界の話

ちいさな物語

#031 後宮の影に咲く花

後宮の暮らしは、美しく輝いているように見えるだろう。煌びやかな着物をまとった妃たちが宮殿を歩き、香が漂う中、静かに時が流れていく。けれど、そこに仕える下女の世界は、泥で濁った沼のようなものだ。誰かが足を取られて沈むのをみんな期待して待ってい...
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#029 勇者一行観察日記

まあ、こんなこと人にはあまり言えないけど、私はずっと勇者一行を尾行しているんだ。そう、あの有名な勇者だ。魔王討伐の旅に出たという噂の一団。その行く先をこっそり追いかけ、日々の日記に克明に記している。動機?それはまだ秘密だ。初日、彼らが出発す...
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#027 魔法道具屋の厄介な仕事

ガタが来ている店の扉がきしみ、ドアベルが鳴った。入ってきたのは、背の高い男だ。外套のフードを目深に被り、顔はほとんど見えない。でも、感じるんだよ、ただの人間じゃないってことを。「ここは、魔法道具をなんでも直せる店だと聞いた」低い声でそう言わ...
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#021 王様の遊び

王の奇妙な遊びが始まったのは、彼が即位して間もない頃だった。ある日突然、「民の暮らしを学ぶ」と言って城を出て行き、ボロボロの服をまとい市井を歩き回るようになった。家臣たちは「気分転換でしょう」と笑っていたが、王は次第にその遊びに没頭していっ...
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#019 薔薇色の嘘

片田舎に佇む古びた屋敷に住むお嬢様、クラリッサは、目が見えない。彼女の目は開いているが、光も色も感じることができない。それでも、彼女の世界は鮮やかだった。執事のアルフレッドが、彼女に毎日「景色」を語ってくれるからだ。「今日は曇り空です。灰色...
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#011 三時間だけの同窓会

仕事帰りにふらりと酒場へ立ち寄った。小さな店だがそこそこにぎわっている。カウンターには数脚の古びたスツール、申し訳程度にテーブル席もあった。天井から吊るされたアンティーク調のランプはなかなか雰囲気があっていい。いきなり入ったことがない店に立...