不思議な話

ちいさな物語

#069 不可解な裁判

気がつくと、俺は法廷に立っていた。傍聴席には、黒ずくめの人々が並び、静かにこちらを見ている。検察官は痩せた男で、深い皺の刻まれた顔をしていた。判事はというと、裁判官席で何やら書類を眺めている。ここからは何が書いてあるのか見えないが、膨大な量...
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#068 鈴の音の山

おやおや、旅の方。そんなところで立ち止まって、どうしたんだい? ん? 鈴の音? 山道を歩いていたら、鈴の音が聞こえて追いかけきた? そりゃ、変な話だねぇ。ああ、もしかして……じゃあ、ちょっと歩きがてら、ここらの話をしてやろうか。このあたりに...
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#057 甘い取引

バレンタイン前夜のことだ。コンビニ帰りの俺は、妙なものを拾った。小さな包み紙に包まれた、一粒のチョコレート。金色のリボンがついていて、高級そうに見える。「落とし物か?」そう思ったが、辺りを見回しても人影はない。もちろん拾って食べようとしたわ...
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#056 幻のチョコレート店

「こんなところにチョコレート屋なんてあったっけ?」仕事帰り、駅前を歩いていると、小さな店が目に留まった。深い紺色の外壁に、金色の文字で「chocolaterie Noire」と書かれている。シックで落ち着いた雰囲気があり、妙に惹かれる。店内...
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#051 クイズ番組の向こう側

夕飯を食べ終え、ソファに寝転がりながら何となくテレビをつけた。画面には派手なネクタイの司会者と、三人の解答者たち。お決まりのクイズ番組だ。とりあえず人の声がしていた方が落ち着くのでテレビをつけたままにしてスマホをいじる。「第1問! 日本の首...
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#050 時の王と旅人

「旅人よ、ようこそ。我は時の王——すべての時を統べる者だ」男は堂々とした立ち姿で、まるで時間そのもののようだった。彼の背後には、異なる時代の景色が幾重にも折り重なっていた。砂漠の遺跡、未来都市、戦国時代の城下町——それらがまるで波のように揺...
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#048 パン窯の神様

あ、ちょっと不思議な話があるから聞いてくれよ。家業のパン屋を継いで5年になるけど、あの日ほど気味の悪い思いをしたことはない。毎朝、夜明け前に仕込みを始めて、窯の火を起こすのが日課だ。うちの自慢はこの窯でじっくりと焼きあげたふっかふかの食パン...
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#046 チャラ男ホストの人気の秘密

「いらっしゃいませ~♡ 今夜は姫のために俺を捧げちゃうよん♪」 銀座の高級ホストクラブ。テーブルに座るのは、やや疲れた様子の女性客。彼女の向かいで軽快にシャンパンを開けたのは、No.1ホスト・レイ。 「レイくん、相変わらずチャラいねぇ」 「...
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#045 口の悪い鏡

あれは引っ越して間もない頃でした。新居の洗面所についていた古びた鏡が妙に気になっていて。縁に細かい傷や汚れがあったけれど、それも味があると思ってそのまま使うことにしていたんです。でもある朝、顔を洗おうと鏡に向かうと、低い声が聞こえたんです。...
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#044 親友の秘密

最近、あるチャットアプリにハマっている。そこでは匿名で世界中の誰とでも話せるのだ。ある日、僕は「カエサル」というハンドルネームのユーザーと知り合った。最初は他愛ない雑談だったが、彼の話はちょっとないくらいに知的だった。カエサル: 「今日のニ...