不思議な話

ちいさな物語

#163 そこにある道

引っ越したばかりのアパートは、静かでとても居心地が良かった。ただ一つ、部屋の真ん中を通る妙な「通り道」があることを除いて。最初に異変を感じたのは引っ越して数日後の深夜だった。寝付けずにぼんやり天井を眺めていると、ふと誰かが部屋の中を横切った...
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#160 骨笛

トウジがそれを見つけたのは、村の外れの川辺だった。白く乾いた骨が、土に半ば埋もれるようにして転がっていた。鹿の骨だろうか。それとも……。「変わった形だな」拾い上げてよく見ると、中が空洞になっていて、まるで笛のようだった。試しに息を吹き込むと...
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#159 友達の前世

「俺、前世の記憶があるんだ」そう言ったのは、俺の親友、大輝だった。「また適当なこと言ってんな」俺は笑いながら返したが、大輝は真顔だった。こいつはいつもふざけてばかりなのに、そのときの表情は妙に冷静で、冗談とは思えなかった。「本当だって。……...
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#158 空色の続き

「ソラ色さん」のブログを見つけたのは、偶然闘病記録に関するまとめ記事を読んだのがきっかけだった。そのブログは、穏やかな日常と病気に対する前向きな気持ちが淡々と綴られていて、どこか心が和んだ。興味を引かれた私は、数年前の記事から順に読み進める...
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#157 風の境界線

小学生の彩奈は、母が誕生日に買ってくれたリボンをとても気に入っていた。その日、彼女は近くの丘で一人遊びをしていたが、突然吹き抜けた風がそのリボンをさらい、空高く持ち去っていった。「あっ、待って!」彩奈はリボンを追って駆け出した。風に流される...
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#152 消えた親友

それは雨の日曜日だった。大学に合格し、春から一人暮らしをすることになった。そのための部屋の片付けをしていた僕は、ふと昔のアルバムを手にする。写真の中には、小学生の頃の僕が満面の笑みを浮かべている。写真の中で僕は知らない少年と楽しげに肩を組ん...
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#150 山奥の鏡池

昔々、と言っても、それほど遠い昔ではない。ある村の山奥に、誰も近づこうとしない池があった。その池は「鏡池」と呼ばれ、どんなときも水面が静かで、まるで鏡のように景色を映すという。しかし、村人たちは口をそろえてこう言うのだ。「あの池の水には、絶...
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#149 幽霊のお仕事

あんた、幽霊の仕事って聞いたことあるか? いや、本物の幽霊じゃない。あ、幽霊っちゃ幽霊なんだけど――説明が難しいな。とりあえず、俺は死んだ。でもそのまま成仏せず、心霊スポット専門の幽霊として働いてるっていったらわかるかな。仕事内容は簡単だ。...
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#146 夢渡りさん

「昨日さ、不思議な夢を見たんだよね」カフェで向かい合った友人のミサキがそう話し始めた。「どんな夢?」僕が尋ねると、ミサキは興奮したように身を乗り出す。「なんか知らない街で、背の高い男に会ったんだけど。そいつが言うの、『君、またここに来たね』...
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#143 どこまでも続く夜道で

少女は歩いていた。街灯の少ない夜道。足音だけが心細く響いていた。後ろを振り返っても、誰もいない。前に進んでも、何も変わらない。曲がり角を三回曲がれば元の道に戻るはず。けれど、五回でも十回でも、少女は同じ街角へ戻ってきた。「ここ……どこ?」自...