不思議な話

ちいさな物語

#083 廃駅の階段

聞いてくれ、俺はただの階段だ。だけど、俺が見た光景を話したら、きっとお前も興味を持つだろう。この廃駅には、いろんな人間が来るんだ。俺はもう使われなくなった駅の階段。錆びた手すりに苔むした段、それが俺の全てだ。何十年も前に列車が通らなくなって...
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#081 転がってゆく先

俺か? 俺はただの空き缶さ。最初はちゃんとした飲み物だった。工場で作られ、店に並び、人間に買われ、そして——飲まれた。そこまではまあ、よくある話だ。問題はその後だ。飲み終わった俺は、ポイッと道端に投げ捨てられてしまった。ガードレールにぶつか...
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#080 死神の鳥

最初に気づいたのは、駅のホームだった。目の前のサラリーマンの頭に、小さな黒い鳥が止まっていた。カラスのように見えるが、もう少し小さい。それにどこか質感が、違う。まるで影が形を成したような、ふわふわとした不確かな存在だった。周囲の人々は誰も気...
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#077 雪山で待つ者

山頂を目指していた私は、突如として吹雪に巻き込まれた。冬山では天候の急変が命取りになることを知っていたが、ここまでひどいとは。油断したと認めざるを得ない。視界は数メートル先も見えず、足を踏み出すたびに雪に沈む。体温が奪われ、指の感覚がなくな...
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#076 回転寿司と回るおじさんの幽霊

回転寿司のレーンに、おじさんが流れていた。寿司の皿に挟まれながら、妙にリラックスした顔をしている。「おっ、トロが来た!」おじさんは隣の皿からトロをつまみ、満足げに頬張った。いや、何食ってんだ。ていうか、なぜ流れてる?俺は周囲を見渡した。だが...
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#075 マスク社会の裏側で

コロナ禍でマスクは社会の必需品になった。コロナ禍がおさまった現在でも街を歩く何人かが口元を隠し、表情が見えなくなる。そのことを不審に感じる者はいない。皆、慣れてしまっていた。そしてある日、気づいたのだ——街には以前よりも活気が満ちていること...
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#074 神さまの憂鬱

町はずれの小さな神社に、野良猫がよく集まる場所があった。僕は昔からその猫たちを眺めるのが好きで、暇があればよく通っていた。今日も境内の石段に腰を下ろし、猫たちが気ままに歩き回るのを眺めていた。毛づくろいをする者、昼寝をする者、鳥を狙ってじっ...
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#072_頭の上に

最初に気づいたのは、コンビニの店員の態度だった。「お弁当、温めますか?」俺の顔を見て普通に聞いてきたのに、次の瞬間、スッと視線が上に動く。そして、何事もなかったようにまた俺の目を見て微笑む。ほんの一瞬のことだ。そんなことはその直後に忘れて二...
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#069 不可解な裁判

気がつくと、俺は法廷に立っていた。傍聴席には、黒ずくめの人々が並び、静かにこちらを見ている。検察官は痩せた男で、深い皺の刻まれた顔をしていた。判事はというと、裁判官席で何やら書類を眺めている。ここからは何が書いてあるのか見えないが、膨大な量...
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#068 鈴の音の山

おやおや、旅の方。そんなところで立ち止まって、どうしたんだい? ん? 鈴の音? 山道を歩いていたら、鈴の音が聞こえて追いかけきた? そりゃ、変な話だねぇ。ああ、もしかして……じゃあ、ちょっと歩きがてら、ここらの話をしてやろうか。このあたりに...