不思議な話

ちいさな物語

#043 午前二時のケーキ屋

「いらっしゃいませ」 カラン、と控えめなベルの音とともに、店の奥から店員が現れる。 白いエプロンをつけた女性は、穏やかに微笑んでいた。年齢不詳だがきれいな女性だ。目元には優しさがにじみ、どこか懐かしい雰囲気を醸し出している。 「お好きな席へ...
ちいさな物語

#039 選ばなかった道の先に

俺には、「もしも」が見える。たとえば、目の前に二つの選択肢があったとする。右へ行くか、左へ行くか。その瞬間、脳裏にぼんやりとした映像が浮かび上がる。右を選べば雨に降られ、左を選べば財布を落とす。どちらがマシかを考え、俺は最善の道を選ぶことが...
ちいさな物語

#038 除霊会社の専属霊媒師(見習い)

「あー、やっぱこの部屋、気配が濃いなぁ……」先輩は無責任につぶやいた。まるで「雨降りそうだなぁ」くらいのゆるさだ。今日もやる気がなさそうで困る。ここは某不動産会社が「夜な夜な幽霊が現れる」と訴えてきたマンションの一室。私たちは知る人ぞ知る事...
SF

#036 終末のハイウェイ

気がついたら、世界は終わっていた。地震があったのか、噴火があったのか、核爆弾でも飛来したのか、一瞬にして疫病が流行ったのか、それらが同時多発的に起こったのか、報道機関も壊滅してしまったので厳密な原因は分からない。ただ、都市は瓦礫と化し、人影...
ちいさな物語

#030 知らない子

いやさ、俺も驚いたんだよ。その夜、残業でくたくたになっていた俺はスマホに留守電が入っているのに気づいた。親から着信が入っていて「今度、お前のところに田舎の親戚の子が行くから、しばらく面倒見てやってくれ」って。いや、俺、仕事忙しいし、何でそん...
ちいさな物語

#028 地下鉄の幽霊が陽キャだった件

終電の地下鉄って、静かで好きなんだよな。疲れた人たちがほとんど無言で座ってる、あの感じが妙に落ち着く。俺も仕事帰りでヘトヘトだったから、席に腰を落ち着けてスマホで推しのライブ動画でも見ようと思ったんだ。でも、その日は違った。車両の端っこで、...
ちいさな物語

#025 地下迷宮の囁き

あの日、雨が降っていたんです。急に降ってきたんで、あわてて入った駅の地下街に入ったんですよ。普通に雑貨屋とか服屋やカフェが並んでいる本当にごく普通の地下街だったんです。雨がやむまでちょっとゆっくりしちゃおうかなって思って、あまり土地勘はなか...
ちいさな物語

#024 見知らぬ守護霊

最初に違和感に気づいたのは朝顔を洗っていたときだった。鏡の中の自分の肩の辺りの空間が薄ぼんやりとにじんでいる。鏡が汚れているのかと思ったが、そのにじみは自分の動きにぴったりとついてくる。よくわからなかったが、たいしたことでもないので気にしな...
ちいさな物語

#020 終わらない一日

この繰り返しが始まったのはいつからだろう。私はもう何度も、同じ一日を体験している。この日は私にとって人生最悪の日だ。大切な人を失うという、耐え難い悲劇の日。その朝、彼女と最後の口論をしたのを覚えている。くだらないことで言い争いになり、彼女は...
ちいさな物語

#018 手のひらの宇宙

一人暮らしが味気なくて、何となくペットショップに立ち寄った。動物を飼うつもりはなかったが、動物と暮らす自分を想像をしてみてもいいかもしれないとふと思ったのだ。そこで出会ったのは、少し変わった模様のハムスターだった。背中に広がる斑点は、まるで...