ちいさな物語 #127 落ちてきた雲 朝、目を覚ました瞬間、異変に気づいた。カーテンを開けると、目の前の景色に息をのんだ。空はびっくりするほどの快晴で、そこは別にいいのだが、問題は――雲がすべて落ちてきていた。町中が、白くもこもこした塊で埋め尽くされている。電線も信号も、車も家... 2025.03.20 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #126 桜の散る夜 昔々、と言うほどではないが、今よりずっと昔の話だ。ある村のはずれに、大きな桜の木があった。それは見事な一本桜で、春になると村中の者が見に行くほど美しかった。だが、不思議なことに、桜の散る夜にだけ、そこに娘が現れるという噂があった。その娘は、... 2025.03.20 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #123 青い鳥 「おい、見ろよ!」友人のツヨシが興奮した声で俺を呼ぶ。指さした先にいたのは――青い鳥だった。ただの青じゃない。夜明け前の空のような深い青、青い炎のように揺らめく羽。その存在感は現実味がなく、まるで絵本の中から飛び出してきたみたいだった。「マ... 2025.03.18 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #122 祖父のビー玉 祖父が亡くなった後、古い木箱の整理をしていると、小さな布袋が出てきた。中には、ひとつのビー玉が入っている。透明なガラスの中に、ゆらめく青と緑の渦が閉じ込められていた。なぜか惹かれてそれを手に取ってみる。そして何気なくのぞき込んだ瞬間、息をの... 2025.03.18 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #113 満月の神渡し 昔々のとある山深い村の話だ。この村には、古くからの掟があった。「満月の夜、決して外へ出てはならぬ」子どもも大人も、この掟を守るのが当たり前だった。理由を尋ねると、年寄りたちは口を揃えて言った。「その夜は神が通る。もし鉢合わせすれば、二度と戻... 2025.03.13 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #112 宙を泳ぐ魚 古びた食堂のカウンターに座り、俺は旬の焼き魚定食を前にした。魚の種類が季節によって変わる人気の定食だ。脂ののった焼き魚が湯気を立て、芳ばしい香りを漂わせている。箸を持ち、ふっくらしたその身をほぐそうとした、その瞬間だった。魚の体が微かに震え... 2025.03.13 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #108 屋上は海の底 「屋上は海の底だよ」 彼女がそう言ったとき、僕は初めて自分の足元に意識を向けた。空に一番近いはずの場所で、足下に波打つ海の気配を感じるというのは、どこか奇妙な感じがした。僕の住むマンションには、奇妙な噂がある。『深夜0時を過ぎた頃、屋上に行... 2025.03.11 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #106 コンビニ仙人 深夜のコンビニには、時々変な客がいる。大声で独り言を言いながらおでんを選ぶおじさん。棚の前で微動だにせず立ち尽くす女子高生。酔っ払ってATMと口論しているサラリーマン。まあ、深夜のコンビニなんてそんなものだ。でも、あの仙人は、もっとおかしい... 2025.03.10 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #104 本棚の迷路と本棚の住人 カズキは、ふと目についた古本屋に立ち寄った。「こんなところに本屋なんてあったっけ?」それは駅前の路地裏にひっそりと佇む店だった。木製の看板にはかすれた文字で「迷文堂」と書かれている。店内に足を踏み入れると、微かにインクと紙の匂いが鼻をくすぐ... 2025.03.09 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #102 地下墓地のともしび 地下墓地の奥深く、エリアスは静かに暮らしていた。彼は幽霊だったが、生前の記憶はほとんどなく、ただ「優しくありたい」という思いだけが胸に残っていた。墓地には時折、弔いや祈りのために人間が訪れる。エリアスはそんな彼らの肩にそっと手を添えたり、冷... 2025.03.08 ちいさな物語不思議な話