ちいさな物語 #217 夢屋ユメコ 「こちら、お客様の今夜の夢チケットになります」カウンターの奥から女性が差し出してきたのは、淡いピンク色の厚紙だった。“初恋リピート夢:シナリオ型/記憶連動モード/時間:90分” と印字されている。夢を選んで眠る。それは今や、都会で働く人々の... 2025.05.04 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #216 あの角を曲がると、自販機がある その自販機は、決まって夜中の二時過ぎにしか現れない。駅から少し離れた住宅街の裏路地。昼間に歩いても、そこに自販機などない。ただのブロック塀と、ゴミ集積所と、草の伸びた空き地があるだけだ。だが、ある夜、私は残業帰りにその道を通った。ふと、曲が... 2025.05.04 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #213 神さまの座布団 これはの、わしのばあちゃんが、そのまたばあちゃんから聞いたという話じゃ。昔々、山のふもとに「木長こなが村」っちゅう、小さな村があったんじゃ。田んぼと畑と、ちょっとした神さまがおるだけの、静かなところじゃった。この村ではな、毎年秋になると「神... 2025.05.02 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #208 約束の庭 午後三時、町外れの公園は、夏の匂いに包まれていた。僕は汗ばむ手のひらでサッカーボールを拾い上げ、適当に芝生に向かって蹴り戻した――つもりだった。乾いた音とともに、ボールは明後日の方向に飛んでゆく。「取ってこいよ!」友達が冗談まじりに叫ぶ。「... 2025.04.30 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #207 夢で見た城 最初にその城を見たのは、三夜前の夢の中だった。高い塔、深い堀、月明かりに照らされる石造りの回廊。人影はどこにもなく、静寂だけが城の隅々にまで満ちていた。目が覚めると、城のことが妙にはっきりと記憶に残っていた。夢にしては現実的すぎた。石の冷た... 2025.04.29 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #205 願いを叶える水差し その水差しは、駅裏の薄暗い古道具屋の棚に、ぽつんと置かれていた。釉薬の剥げた陶器に、幾何学的な模様。ひび割れた注ぎ口が、妙に気になった。「使えるよ。一滴で、なんでも願いが叶う」店主はそれだけ言って微笑んだ。どういう意味なのかよくわからなかっ... 2025.04.28 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #204 魔法少女ミラ、敵待ちの日々 ある朝、目が覚めると、枕元に小さな生き物が座っていた。「きみは選ばれたんだよ! 今日から魔法少女だ!」ぬいぐるみのようなその存在は、声だけは異様に力強い。ぼう然とする僕――ミラに、丸い手が差し出された。「さあ、契約だ!」契約書などなかった。... 2025.04.28 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #201 新しい選択 「消える」という選択肢が生まれて、もう十年が経つ。それは革命だった。誰にも迷惑をかけず、自分の存在をそっとこの世界から取り除くことができる。特許技術は《ゼロ・プロトコル》と呼ばれ、政府も企業もこぞって推奨した。いわゆる「無敵の人」による事故... 2025.04.26 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #200 チワワのいる部屋 「本当に、この家賃でいいんですか?」僕が何度目かの確認をすると、不動産屋の男性はやや面倒くさそうに頷いた。「はいはい。告知事項ありってだけで、リノベーションしてるから中はきれいだし、立地もいいでしょ」見た瞬間、即決だった。駅徒歩三分、2DK... 2025.04.26 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #197 逆さまの雪 その町では、雪が降らない代わりに、雪があがるという。最初にその話を聞いたとき、私は冗談か、あるいは詩的な比喩のようなものだと思った。だが、列車を降りたその瞬間、私はそれを目撃した。駅のホームで立ち止まり、思わず空を見上げた。確かにそれは、地... 2025.04.24 ちいさな物語不思議な話