変な話

ちいさな物語

#574 釣れるもの

買い物の帰りに、私は町はずれのため池でしゃがみこんでいる子供たちを見つけた。細い竹の枝に糸を結び、先にはおそらくスルメでもつけているのだろう。懐かしい。ザリガニ釣りに違いない。けれど、いちばん端の男の子が引き上げたものを見て、私は足を止めた...
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#571 榊原さんへの伝言

その日のオフィスは、まるで戦場だった。鳴り止まない電話、飛び交う怒号、そしてなぜか誰かが持ち込んだであろう「たこ焼き」のソースの香りが充満し、脳が正常な判断を放棄し始めていた。私、佐藤は、締め切り直前の資料作成に追われながら、営業部のエース...
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#570 落日の後悔

その町を訪れた友人の佐藤は、商店街の不自然なほどの「静寂」に違和感を覚えたようだった。「なぁ、何食べたい? 実は料理得意だからな」私は肉屋で豚こま肉を包んでもらいながら声をかけた。時刻は午後四時五十九分。商店街の店主たちはすでにシャッターを...
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#569 エキストラ・ブルーの街角

大学卒業を控え、入社式までの空白期間は、恐ろしいほどに平坦だった。友人たちは卒業旅行だ、最後の合コンだと騒いでいたが、俺の手元には使い道のない時間だけが、澱(おり)のように溜まっていた。あまりの暇さに耐えかねて、地元の友人である佐藤に連絡を...
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#567 会議室の完璧な存在

その機械が一般企業の会議室に普及して以来、ビジネスマンの仕事への姿勢は頭上のホログラムによって丸わかりになってしまった。SG(スリープ・ゲージ)――脳波から睡眠欲求を読み取り、ゼロから100までの数値で可視化する装置。それは、個人の体調管理...
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#565 名探偵アリスの微笑み

霧が深く立ち込める古い洋館の広間で、一人の少女が優雅にティーカップを傾けていた。彼女の名は結城アリス。この界隈では「歩く芸術品」とまで称される美少女探偵だ。ウェーブがかった長い黒髪に、陶器のような白い肌。そして、すべてを見透かすような深い瑠...
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#564 ダンスタウンダンス

最初は「新手のフラッシュモブか?」って思ったんだよ。月曜の朝、駅前。全員がスマホを見ながら歩く、いつもの朝だと思っていた。そこへ突然、パン屋の店員がトングを持ったまま、ヒップホップのステップを刻み始めた。トングをカチカチと鳴らしながら、腰を...
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#563 夢の途中で

最初に気づいたのは、たぶん2月の終わり頃だったと思う。その日の夢はやけに鮮明だった。それ自体はたまにあることなんだけど、このときはもっとおかしな夢だった。「遅刻だ!」って大慌てで駅の階段を駆け上がっていく。でも改札前で定期が見つからない。泣...
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#560 夢の税務署からの呼び出し

最初の呼び出しは、寝落ちしたソファの上だった。目を閉じたはずなのに、俺は蛍光灯の白い光の下に立っている。床は灰色のタイルで、空気は書類と鉛筆の匂いがしていた。正面の看板に、でかでかと「夢税務署」とある。「え?」と声が漏れた。受付の窓口には、...
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#558 チョークの決闘線

仕事帰り、人だかりを見つけて足をとめた。チョークで書かれた円の周りに、同じく仕事帰りみたいな大人が十人ほど、距離を取って立っていた。不思議と張り詰めた空気が漂っている。「ここ、何やってるんですか」と隣の男に聞くと、男は小声で「バトル」と答え...