変な話

ちいさな物語

#405 福龍軒の秘密

福龍軒は、駅から少し外れた路地裏にある。古びた赤い看板、かすれた漢字、灯りの弱い裸電球。初めての人には少し不気味に映るかもしれないが、地元では「隠れた名店」として評判だ。辺鄙な場所なのに客足が途絶えることがない。店主の張さんは寡黙な人物で、...
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#401 秘密戦隊父と母

押入れの掃除なんて、正直気が進まなかった。古い布団やら黄ばんだ雑誌やら、どうせガラクタばかりで大変なのは目に見えていた。ただ、捨てられない大量のマンガ本をしまう場所がほしいと言ったら、押入れを片付けたら、空いたスペースを使っていいと言われた...
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#400 罰ゲームで魔法少女になるオッサン

商店街の組合の飲み会で軽率なことを言ったのが、そもそもの間違いだった。「おしっ、負けたやつ、コスプレして販促な!」「いいですねっ! 商店街の売上もアップするかもです!」冗談で言ったはずのその言葉に若手連中もノリノリだ。そして始まる謎の賭け麻...
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#393 ストリート茶会! 粋がいきすぎる壮絶バトル

その夜、路地裏に円陣ができた。ラップバトルのサイファーよろしく、だがそこに並ぶのはマイクでもターンテーブルでもない。ゴザ、水指、そして風炉――茶道で夏に使われる炉である。ストリート茶会は唐突に始まる。掛け声ひとつなく、最初に一歩踏み出したの...
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#392 都市伝説を考える会

先週の金曜、友人に妙な会合に連れて行かれた。名前は「都市伝説を考える会」。聞いただけで胡散臭いだろう?薄暗い喫茶店の二階に十人ほど集まっていて、皆が輪になって話していた。年齢も職業もバラバラ。スーツ姿の中年、フリーター風の若者、妙に落ち着い...
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#386 変な新聞記事

何年か前のことだが、地方紙に載った小さな記事が、妙に記憶に残っているんだ。――以下、記事のスクラップブックから抜粋する。近隣住民同士の口論、原因は「プリン」をめぐる主張の相違八月十八日午前八時ごろ、市内在住のパート従業員Aさん(42)とパー...
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#384 しおちゃんと僕

しおちゃんこと、間宮栞のことを説明するのは、本当に難しい。小さい頃から一緒で、僕にとっては当たり前の存在だった。けれど、他人から見たら、彼女は「びっくりするほど綺麗で、びっくりするほど性格が悪い女の子」だ。あれほど両極端な人間は、たぶんそう...
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#379 虚無ガチ勢の夏

「ガチ勢」って言葉、最近よく聞くだろう?どんな趣味でも、必ずガチな人がいる。釣りガチ勢、アイドル追っかけガチ勢、猫吸いガチ勢、断捨離ガチ勢。だが、僕の隣に住んでいたあの人は一味違った。「俺は虚無ガチ勢だ」と堂々と名乗るその男、村瀬さん。最初...
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#378 走馬灯の編集はじめました

正直に言うと、自分が死ぬのがあんなにあっけないとは思わなかった。朝、餅を食べながらスマホで面白動画を見ていて、思いっきり笑った瞬間、餅が喉に詰まってそのまま──という間抜けな最期だった。さすが日本で最も人を殺している食べ物だ。まだそこそこ若...
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#363 朝活のテーマ

朝5時、都内のとあるカフェ――。夜明け前の静寂を破るべく、今日も「意識高すぎるサラリーマン」たちがぞろぞろとやって来る。スーツ、MacBook、論文プリント、手描き図解、タブレット端末、プロテインのボトル。「おはようございます、今日も『朝』...