変な話

ちいさな物語

#498 天国について

「なあ、俺にとっての天国ってなんだと思う?」朝の喫茶店で、唐突に松田が言った。俺と坂口はコーヒーを飲みかけたまま顔を見合わせた。「いや、知らんけど」「そういうのは自分で考えるもんじゃないの?」松田は深刻な顔でうなずいた。「そうだな。でも俺、...
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#492 森の熊田さん

ニュースキャスターが真顔で言った。「本日、午後二時ごろ、紳士風の熊が市内を歩いているとの情報が入りました」紳士風の熊。その言葉だけで違和感が爆発する。画面には熊。スーツにネクタイ。手にはブリーフケース。記者が近づく。「お仕事中ですか?」熊は...
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#489 全力バカ選手権

ことの発端は、昼休みのどうでもいい雑談だった。「人生で一番、くだらないことに本気を出したって経験ある?」営業の中村が唐突にそう言ったのだ。みんなポカンとしていたが、彼は真顔で続けた。「昨日、家のティッシュ箱の残りを何秒で引ききれるか、本気で...
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#488 給食革命〜おかしなランチ〜

月曜日の昼休み、いつもと同じ給食時間。でも、その日だけは空気が違った。「……なにこれ」俺の隣で、クラスの委員長・佐藤がスプーンを持ったまま固まっている。その日の給食のメニュー表にはこう書かれていた。【本日の献立】・ふんわりマシュマロカレー・...
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#484 ロボット掃除機、逃走中

うちのロボット掃除機が逃げた。本当に、逃げた。電源も入れてないのに、玄関のドアの隙間からスッと出ていったのだ。夜中の二時。寝ぼけた俺の目には、あの丸いフォルムがまるで忍者のように見えた。「おい! お前、どこに行く!」叫んだが、返事はない。代...
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#482 かわいすぎる親友

「なあ、どう思う?」昼休み、いつものようにコンビニ弁当を食べていた俺の前に、見知らぬ女子が立っていた。いや、正確には女子じゃない。「……お前、マジで誰?」「俺だよ、健太」それを聞いた瞬間、弁当の唐揚げをのどに詰まらせた。ゴホゴホ言いながら、...
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#480 六角の席

その日は教室の席替えの日だった。いつもなら机を動かして終わりなのに、急に担任が妙に楽しげに言った。「今日から特別な配置にする。六角形だ」うちの担任は少し変わっていて、いきなりこういうことをしだすのはよくあることだった。クラス中が「ハイ、ハイ...
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#468 作られた呪物

「なあ、呪いのアイテム作ろうぜ」昼休み、いきなりそんなことを言い出したのは友人の小田だった。「……お前、また変な動画でも見たのか?」「違うって! 『呪物作ってみた』系の動画が流行ってんの! それで俺らもやってみようぜって」変な動画、見てるじ...
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#461 商店街サバイバルゲーム

俺たちの商店街で「サバイバルゲーム」が始まったのは、文房具店のカミさんが言い出したのがきっかけだった。「そんな喧嘩するくらいなら、いっそゲームで決めちまいな」実はうちの商店街は最近派閥争いが激化していた。二つに割れた派閥――若手派と古参派。...
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#459 スクランブル交差点のハイタッチ

聞いてくれ。渋谷スクランブル交差点で、最近とんでもない現象が起きてるんだ。俺が最初に見たのは金曜の夜だった。人混みの中、サラリーマンが突然すれ違いざまに若者とハイタッチしたんだよ。「パァン!」っていい音立ててな。で、二人とも満面の笑み。「え...