変な話

ちいさな物語

#248 エレベーターのボタン全部押す係

夜のマンションには謎の「ボタン全部押す係」が現れるようだ。最上階から地下まで、全部の階を律儀に巡る彼(あるいは彼女)は、一体何者なのか? そして、住人たちはなぜか誰も驚かない――。 「また全部押されてる……」 エレベーターの扉が開くと、見慣...
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#246 オットイアの棲む家

「ねえ、“オットイア”って知ってる?」友人の紗織が、砂糖を入れたコーヒーを混ぜながら不意に言った。主婦たちの集まりの中、ざわつくスーパーのフードコート。涼しい木曜日の午後、いちばん空気がゆるむ時間帯。「夫嫌って書いて、“オットイア”」初めて...
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#242 冷蔵庫の狂気

引っ越し先のアパートには、備え付けの冷蔵庫があった。真っ白な本体は古びていて、冷蔵庫というより巨大な棺桶に見えなくもない。前の住人が置いていったものらしく、家主も「処分していい」と言っていたが、昨今家電を捨てるのにも金がかかる。どうせ必要な...
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#239 闇バイト始めました。

僕はバイトを探していた。スマホの求人アプリを見ても、どれもピンと来ない。そんな時、駅前の掲示板に貼られていた小さな張り紙が目に飛び込んできた。『闇バイト募集! 高収入保証! 秘密厳守!』え、闇バイト? 求人広告でそれ書いちゃってもいいの?最...
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#238 我が家の蓄財アクティビティ

「家族で沖縄旅行に行こう!」父のその一言で、私たち一家の蓄財生活が始まった。最初はただ、ありふれた旅行資金作りだった。しかし、それは予想外の盛り上がりを見せ、旅行そのものよりも貯金活動の楽しさが、家族の話題の中心となった。まず最初に決めたの...
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#236 それっぽいビジネス書の謎

「今の時代、成功したいならまず“言い回し”を身につけろ」それが最初にネットでバズった“それっぽい言葉”だった。出どころは不明。けれど、どこかで見たような内容だった。自己啓発か、ビジネス書か、あるいはどこかのインフルエンサーの切り抜きか。ただ...
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#235 いつもの

その料理が運ばれてきたのは、ちょうど僕が水を飲もうとしたときだった。木のトレイに載ったそれは、湯気を立て、甘いようで香ばしい、なんともいえない香りを漂わせていた。ふと横を見た。隣の席の中年男性が、箸を手にしていた。ゆっくりとご飯をすくい、汁...
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#233 我は自販機、ここに在り

私は、ここにいる。設置されたのはたぶん、もう何十年かは前になる。地下鉄の三番線ホーム、柱の陰。少し視界が悪いが、それでも人の流れはよく見える。私は——自動販売機。古めかしい外観に、ガタガタと音を立てて働く中身。ジュース、コーヒー、水、たまに...
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#228 怪談メーカー

「退屈なあなたの町にも怪談を。」そんなキャッチコピーの書かれたパッケージを、僕は手にしていた。『怪談メーカーキット』——ネット通販で見つけた怪しげな商品だ。商品紹介欄にはこうある。「設置するだけで、あなたの周囲に『それっぽい怪談』が自然発生...
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#224 水曜日だけの魔法使い

僕の能力は週に一度、水曜日にだけ使える。名前は『ウィークデイ・ウィザード』。中二病全開の名前だが、実際のところ、あまり役に立つ能力ではない。月曜や火曜に襲われても何もできないし、木曜や金曜に困っている人に出会っても、助けることすらできない。...