ちいさな物語

イヤな話

#196 理想の職場

「ここが、『理想の職場』だよ」そう言われてドアを開けた瞬間、僕は思った。……臭う。いや、においではない、雰囲気が臭う。なんだこれは。「ようこそ新入り!」金髪リーゼントでガムをクチャクチャしながら近寄ってきたのは、田中課長だ。初対面で肩パンさ...
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#195 アメリカンドッグの謎

図書館の返却棚に並べられていた古い推理小説。なんとなく手に取ったその本のページをめくった瞬間、何かの紙片が落ちた。拾ってみると、文字が薄くなったレシートだ。日付は1年前。近所のコンビニの名前と、以下の品名が印字されていた。・紙コップ・乾電池...
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#194 片付かない部屋

「本当に、ごめんね。たぶん、ひとりじゃ無理だと思って」そう言って僕を呼んだのは、中学時代からの同級生・美沙だった。学生時代から散らかし魔だった彼女の部屋が、どうしようもなく荒れてきたという。興味本位で訪ねたワンルームは、予想以上の惨状だった...
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#193 散歩の達人

僕の夢はシンプルだった。何か一つの道を極めること。今、目指しているのは散歩の達人。人間の散歩、犬の散歩、どんな散歩でも完璧にこなしたかった。ある日、究極の散歩道があると噂される森を訪れた。入り口には『あらゆる散歩者を歓迎する』という心躍る看...
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#192 手袋、怒りの暴走

冬の公園のベンチに、ぽつんと落ちていた赤い手袋。それは右手だけのさみしい存在だった。「ご主人はきっとすぐに戻ってくる!」片手袋は前向きだった。だが、一日経ち、二日経ち、ついには一週間経っても、彼女の持ち主は姿を見せなかった。通りかかった老婦...
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#191 呪いのラリー

最近、どうも体調が悪い。夜眠れず、食欲もない。朝起きると必ず部屋に長い髪の毛が散らばっている。自分の髪ではない。職場でそのことを話すと、後輩が冗談交じりの口調で「それ、呪われてるじゃないですか?」と言いだした。そんな非現実的なことは信じてい...
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#190 掛け軸の中から

祖父が亡くなり、古い家を整理していると一幅の掛け軸が出てきた。
墨で描かれた山水画。穏やかな山々と静かな川の流れが広がり、遠くには霞がかかっている。なかなか見事で美しい軸だった。しかし、その掛け軸を掛けて以来、夜になるとどこからか水の音が聞...
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#189 コンビニ弁当マニアの俺がつぶやいていくぜ?

ちょっと語らせてくれ。俺、コンビニ弁当が人生の全てみたいなコンビニマニアなわけよ? 今日は特に俺の推し『ハピマ』『デイフレッシュ』『サンマート』の弁当の魅力を爆速で語ってくぞ。まず『ハピマ』な。ここはもう完全に弁当界のAppleよ。革新性が...
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#188 呪われた黄金都市

父親も母親も仕事で忙しく、さみしさにかられた少年はふと呟いた。「ねえ、神様、空からお金が降ってくれば、僕はお父さんとお母さんと、毎日一緒にいられるのに」翌朝、本当にそれが現実となった。はじめは誰もが夢だと思った。だが窓を開けると黄金の硬貨が...
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#187 自分がドラゴンだと言い張る猫

うちの猫、タマが突然言葉を話し始めた。猫あるあるなんだけど、タマがじぃっと俺を見ている。こういうときは何か要求があるときだ。「タマちゃ〜ん、どうちたの? ちゅ〜る欲しいの?」猫バカな俺はタマの頭をなでながら、抱きあげた。健康のためにおやつの...