ちいさな物語

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#411 ニンゲンモドキ育成ゲーム

いや、ちょっと変な話をするけどさ、聞いてくれるか?ほら、昔からあるだろ、「育成ゲーム」ってやつ。卵からモンスターが孵ったり、仮想のペットを世話したりするあれだ。俺も子どもの頃にハマってな、学校でこっそりやっては先生に取り上げられたもんだよ。...
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#410 ファンタジー世界の名探偵

俺の職業は「名探偵」だ。ファンタジー世界では、普通は戦士とか魔法使いとか僧侶とか、そういう職業を名乗る。ところが俺の場合、なぜか職業欄に「名探偵」と書かれていた。最初は笑い者だったよ。「なんだよそれ、ただの冷やかしじゃないか」「モンスター相...
イヤな話

#409 割り勘モンスター

聞いてくれよ。俺が前の会社にいた頃の話だ。飲み会がな、とにかく気が重くて仕方がなかった。理由はひとつ――経理課の鈴木先輩がいるからだ。あの人、酒も食い物も底なしでな。いわゆる食い尽くし系。乾杯するやいなや「ビール10杯! 串盛りも大盛りで!...
ちいさな物語

#408 隣のデスクの男

「え、なんか……全然知らないやつが僕の席のとなりにいるんだけど?」これが、僕が最初に思ったことだった。月曜日の朝。カフェインとエナジードリンクのダブルパンチで無理やり目を開かせて出社した。いつものように自分のデスクに座ろうとしたとき、違和感...
ちいさな物語

#407 メタモルフィット

「……誰だ、これ」全身鏡の前に立ち、浩介は息をのんだ。鏡の中の男は確かに自分のはずだった。だが、以前の自分とはまるで別人のようだ。二重あごは消え、ぽっこり出ていた腹は平らになった。顔の輪郭は鋭く、目つきまで変わった気がする。ずっと履けなかっ...
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#406 ホラー道場深夜の稽古

真夜中の二時。布団の中で動画を眺めていた俺の前に、唐突にそれは現れた。白い服、長い黒髪。いかにも幽霊という見た目だ。だが、問題は「演技」だった。「う、うら……め……しやぁ……」語尾が上ずり、間の取り方も悪い。足はしっかり床についており、ただ...
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#405 福龍軒の秘密

福龍軒は、駅から少し外れた路地裏にある。古びた赤い看板、かすれた漢字、灯りの弱い裸電球。初めての人には少し不気味に映るかもしれないが、地元では「隠れた名店」として評判だ。辺鄙な場所なのに客足が途絶えることがない。店主の張さんは寡黙な人物で、...
SF

#404 最後の告白

夜風が静かに吹く中、私は公園のベンチに座っていた。隣には彩花がいる。彼女とは幼い頃からの親友だ。何でも話せる関係だと思っていた――いや、本当はずっと隠していた。「何? こんな夜中に呼び出して。何かあった?」彩花が首を傾げる。彼女の声があまり...
SF

#403 昇降の途中

エレベータの扉が閉まる音は、思いのほか軽やかだった。だが、その先に待つ旅路は軽やかとは言えない。地上から宇宙ステーションまで、数時間かけて上昇する。「長いなあ」隣でつぶやいたのは、作業着姿の中年の男だった。額に汗が浮かんでいるが、慣れている...
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#402 戦場の絵の具

少年がそれを拾ったのは、戦場の外れだった。瓦礫と灰に覆われた大地の隅、泥に半分埋もれるようにして転がっていた古びた木箱。蓋を開けると、中には色あせた絵の具が並んでいた。赤、青、緑、黒。ただそれだけ。しかし、どの色も普通の絵の具とは違う、奇妙...