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#311 彗星が落ちたあとの話

彗星が落ちたという丘に足を踏み入れたのは、夏の終わりだった。丘には不自然なくぼみがあり、その底で一人の少女が空を見上げている。その光景はかなり奇妙だったが、なぜか僕は怖くなかった。「君、大丈夫?」声をかけると少女はゆっくりと振り返った。月の...
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#297 逃げるマウスの秘密

「あれ?カーソルが……」深夜を過ぎた頃、僕はデスクに向かい、ふと画面に目をやった。すると、画面上のカーソルが、誰も触れていないはずのマウスに合わせて、突然ひとりでに動き始めたのだ。カーソルは不規則に震え、ゆっくりと画面の隅まで滑っていく。そ...
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#288 宇宙人だらけのブラック企業

念願の就職先が決まった。あこがれだったIT企業。だが、初日から違和感だらけだった。朝の朝礼では、全員が大きな声で「ビジネス! 宇宙! 発展!」と叫ぶ。何かの冗談かと思ったが、誰も笑わない。会議室のホワイトボードには見慣れぬ記号と数字の羅列。...
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#278 防犯カメラの目論見

地元のショッピングモールでは、防犯カメラの異常が頻繁に起きていた。この防犯カメラはAIが搭載された最新型だったが、高級なため、たった一台しか導入されていなかった。深夜、誰もいないフロアで勝手に動き出し、人のいない方向を執拗に見つめるのだ。設...
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#255 幸福化社会にて、鳥は歌わず

働かなくていい。食事も、運動も、睡眠すらも必要ない。人工代謝調整、神経伝達最適化、精神恒常性維持装置。技術の進歩によって人間の「必要」はすべて満たされた。娯楽は無限、痛みは除去され、争いも淘汰された。幸福化と名付けられたこの新しい時代の到来...
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#226 ほしから来たひと

あんたに話しておこうかね。この村の話さ。もう、誰も覚えていないかもしれんけど、あたしゃちゃんと見たんだよ。忘れるもんかい、あんな人。あれは、わしがまだ小娘だったころ――そうさね、戦のあとで、村にもやっと灯りが戻ってきたころだよ。ある晩、山の...
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#218 新天地の孤独

目覚めた瞬間、僕は凍えるような寒さと眩しい光に包まれていた。意識が少しずつ鮮明になり、ゆっくりと目を開ける。薄暗いキャビンの中、コールドスリープのカプセルが整然と並んでいた。「乗務員ナンバー14、目覚めを確認。おはようございます、アンソニー...
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#166 隕石から生まれたもの

ある朝、庭に見知らぬ隕石が落ちていた。拳ほどの大きさのそれは、奇妙に脈動しており、気持ち悪いので触る気になれず放置していた。数日後、その気持ち悪い隕石が割れて何かが生まれてきた。それは透明でゼリー状のアメーバみたいなものだったが、僕がそれを...
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#151 月の民宿

月面の端っこで、私たち家族は小さな民宿を営んでいる。父と母と私、それからゲツメンシロウサギのミミちゃん。ミミちゃんの先祖は地球のウサギなんだけど遺伝子が組み換えられた人為的な新種なんだって。ここの民宿にお客はほとんど来ない。地球人なんて、な...
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#145 星を繋ぐ糸電話

ある夜、庭で星空を眺めていると、ふと空から何かが落ちてきた。地面に落ちたのは、懐かしい紙コップの糸電話。だが、その糸は細く光り輝き、どこまでも空に向かって伸びているように見えた。「何だろう、これ?」私は不思議に思いながらも耳元にコップを当て...