2025-03

ちいさな物語

#139 我らNPC、ニセ勇者御一行様

「我々って、もしかして脇役ですか?」そんな疑惑が冒険の最中に浮上したのは、仲間たちが焚き火を囲んだある夜のことだった。一応、魔王討伐を掲げてはいるものの、勇者でも賢者でもない、戦士でもない。はたまた謎めいた美しき姫君でもなければ、魔王討伐を...
ちいさな物語

#138 芽吹く荷物

その荷物が届いたのは、雨の降る夕方だった。玄関の前に置かれた段ボール箱。宛名には僕の名前と住所が書かれていたが、差出人の欄はかすれて読めない。通販を頼んだ覚えはないが、もしかしたら家族の誰かが注文したものを仕送りとしてそのまま転送した、とか...
SF

#137 燃やす者

「また燃えてるな、タクミくん」深夜、カズマはモニター越しに、SNSの炎上トレンドを眺めていた。
そこには、またしても“迷惑系YouTuber・タクミ”の名があった。
今度は老人を突き飛ばす動画。笑い声、スローモーション、煽り字幕。
炎上は爆...
ちいさな物語

#136 事故物件専門不動産屋

「どんな事故物件でも取り扱っております」そう掲げた小さな不動産屋に、またひとり奇妙な客が現れた。細身で色白、瞳の奥に妙な光を宿した男。彼は入ってくるなり、まっすぐ店主・長谷川を見つめて言った。「事故物件、できるだけヤバいやつを」長谷川は慣れ...
ちいさな物語

#135 山の神様とおむすび畑

昔々、ある山のふもとの村での話じゃ。その村は山深くての、猟師の獲物になる獣や山の恵みもあって、年中食べ物に困ることはなかった。しかし、ある年、大きな干ばつがあったそうな。畑は枯れ果て、米も野菜も取れなくなり、たのみの山の恵みもさっぱりで、村...
ちいさな物語

#134 失敗したテレポート

ある日突然、自宅の浴槽に半分だけ転送された男が現れた。彼は微笑みながら、「あと半分、探してくれませんか?」と告げた。「すみません、あと半分を探してもらえますか?」自宅の浴槽から突然上半身だけ現れた男が困った顔で笑っている――。(文字数:)
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ちいさな物語

#133 ダンジョンの看板

「おい、本気で行くのか?」 背後からジークが声をかけてきた。 「他に方法がないだろ?」 俺たちは迷宮探索者、いわゆるダンジョン攻略のプロだ。だが、今回の依頼は異質だった。 「看板に書かれていることが必ず起こるダンジョン……か」 俺は目の前の...
SF

#132 一人きりの戦争

僕はこの星に来た最初の人間だった。惑星オルフィス。
この新しい星に、僕以外の人間はいない。
共に暮らす仲間は、すべてアンドロイドだった。僕は特に母親代わりのアンナや祖父のような距離で見守ってくれたエリックが大好きだった。彼らは機械だが、僕に...
ちいさな物語

#131 祠の管理人

どうしてこうなったのかは分からないが、僕は気が付けば、小さな祠の管理人になっていた。転生した先が伝説の勇者でもなく、かといって魔王でもなく、さして重要ではない祠の管理人だなんて、誰が想像できただろうか。もちろんチートも何もない。初めて目を覚...
ちいさな物語

#130 木蓮の歌

祖母の家の庭には、大きな木蓮の木があった。春になると白い花が咲き誇り、甘く濃厚な香りを漂わせる。その美しさもさることながら、僕にはずっと気になっていることがあった。それは——木蓮が歌うこと。咲いている時期だけ、微かな歌声が聞こえるのだ。「お...