ちいさな物語 #209 殺人犯の声 その能力に気づいたのは、駅のホームだった。残暑の厳しい日差しの中、僕は自動販売機でコカ・コーラのペットボトルを買った。シュッと開けた蓋の音と共に、炭酸が弾ける音が心地よく耳に響いた。「……電車遅いな、また遅刻しちゃうよ」誰かが呟く声が聞こえ... 2025.04.30 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #208 約束の庭 午後三時、町外れの公園は、夏の匂いに包まれていた。僕は汗ばむ手のひらでサッカーボールを拾い上げ、適当に芝生に向かって蹴り戻した――つもりだった。乾いた音とともに、ボールは明後日の方向に飛んでゆく。「取ってこいよ!」友達が冗談まじりに叫ぶ。「... 2025.04.30 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #207 夢で見た城 最初にその城を見たのは、三夜前の夢の中だった。高い塔、深い堀、月明かりに照らされる石造りの回廊。人影はどこにもなく、静寂だけが城の隅々にまで満ちていた。目が覚めると、城のことが妙にはっきりと記憶に残っていた。夢にしては現実的すぎた。石の冷た... 2025.04.29 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #206 スキルチェック相談所 「あなたのスキル、無料で診断します――。」古びた木製看板に書かれた文字を眺めながら、僕はため息をついた。冒険者ギルドの試験を三回連続で落ちた帰り道だ。試験官の表情を思い出すと、胸が苦しくなる。戦士志望だが力は並以下。魔法も苦手。特別なスキル... 2025.04.29 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #205 願いを叶える水差し その水差しは、駅裏の薄暗い古道具屋の棚に、ぽつんと置かれていた。釉薬の剥げた陶器に、幾何学的な模様。ひび割れた注ぎ口が、妙に気になった。「使えるよ。一滴で、なんでも願いが叶う」店主はそれだけ言って微笑んだ。どういう意味なのかよくわからなかっ... 2025.04.28 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #204 魔法少女ミラ、敵待ちの日々 ある朝、目が覚めると、枕元に小さな生き物が座っていた。「きみは選ばれたんだよ! 今日から魔法少女だ!」ぬいぐるみのようなその存在は、声だけは異様に力強い。ぼう然とする僕――ミラに、丸い手が差し出された。「さあ、契約だ!」契約書などなかった。... 2025.04.28 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #203 コンビニ迷宮 深夜二時、急に甘いものが食べたくなって、近所のコンビニへ向かった。住宅街の端にある、小さな店。通い慣れた場所だった。自動ドアが、いつもの電子音を立てて開く。けれど、妙だった。店員の姿が見当たらない。深夜ならバックヤードにいるかもしれない。こ... 2025.04.27 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #202 出勤交代制度 令和☓☓年の春、日本政府は「出勤交代制度しゅっきんこうたいせいど」を発表した。通称「現代版・参勤交代」。要約すると、サラリーマンは一年のうち二ヶ月を東京で公務員として働き、残りを会社の地方支社や関係自治体に「詣でる」ように勤務せねばならない... 2025.04.27 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #201 新しい選択 「消える」という選択肢が生まれて、もう十年が経つ。それは革命だった。誰にも迷惑をかけず、自分の存在をそっとこの世界から取り除くことができる。特許技術は《ゼロ・プロトコル》と呼ばれ、政府も企業もこぞって推奨した。いわゆる「無敵の人」による事故... 2025.04.26 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #200 チワワのいる部屋 「本当に、この家賃でいいんですか?」僕が何度目かの確認をすると、不動産屋の男性はやや面倒くさそうに頷いた。「はいはい。告知事項ありってだけで、リノベーションしてるから中はきれいだし、立地もいいでしょ」見た瞬間、即決だった。駅徒歩三分、2DK... 2025.04.26 ちいさな物語不思議な話