2025-04

ちいさな物語

#199 赤信号の理由

夜勤明け、午前3時。住宅街を抜ける細い道にある、三叉路の信号。小さな交差点なのに、なぜか夜中でもちゃんと動いている。だが、不思議なことに、そこに差しかかるといつも赤信号なのだ。誰もいない。車も通らない。なのに赤。ひたすら赤。そしてかなりの時...
ちいさな物語

#198 冒険者と一匹の猫

レオンは剣を抜きながら、ダンジョンの奥へと慎重に進んでいた。「この先に、財宝が眠っているはず……」古びた地図を頼りに、彼はこの未踏のダンジョンに挑んでいた。だが、進むほどに違和感が募る。罠は発動せず、魔物も一切姿を見せない。まるで、何かに導...
ちいさな物語

#197 逆さまの雪

その町では、雪が降らない代わりに、雪があがるという。最初にその話を聞いたとき、私は冗談か、あるいは詩的な比喩のようなものだと思った。だが、列車を降りたその瞬間、私はそれを目撃した。駅のホームで立ち止まり、思わず空を見上げた。確かにそれは、地...
イヤな話

#196 理想の職場

「ここが、『理想の職場』だよ」そう言われてドアを開けた瞬間、僕は思った。……臭う。いや、においではない、雰囲気が臭う。なんだこれは。「ようこそ新入り!」金髪リーゼントでガムをクチャクチャしながら近寄ってきたのは、田中課長だ。初対面で肩パンさ...
ちいさな物語

#195 アメリカンドッグの謎

図書館の返却棚に並べられていた古い推理小説。なんとなく手に取ったその本のページをめくった瞬間、何かの紙片が落ちた。拾ってみると、文字が薄くなったレシートだ。日付は1年前。近所のコンビニの名前と、以下の品名が印字されていた。・紙コップ・乾電池...
ちいさな物語

#194 片付かない部屋

「本当に、ごめんね。たぶん、ひとりじゃ無理だと思って」そう言って僕を呼んだのは、中学時代からの同級生・美沙だった。学生時代から散らかし魔だった彼女の部屋が、どうしようもなく荒れてきたという。興味本位で訪ねたワンルームは、予想以上の惨状だった...
ちいさな物語

#193 散歩の達人

僕の夢はシンプルだった。何か一つの道を極めること。今、目指しているのは散歩の達人。人間の散歩、犬の散歩、どんな散歩でも完璧にこなしたかった。ある日、究極の散歩道があると噂される森を訪れた。入り口には『あらゆる散歩者を歓迎する』という心躍る看...
ちいさな物語

#192 手袋、怒りの暴走

冬の公園のベンチに、ぽつんと落ちていた赤い手袋。それは右手だけのさみしい存在だった。「ご主人はきっとすぐに戻ってくる!」片手袋は前向きだった。だが、一日経ち、二日経ち、ついには一週間経っても、彼女の持ち主は姿を見せなかった。通りかかった老婦...
ちいさな物語

#191 呪いのラリー

最近、どうも体調が悪い。夜眠れず、食欲もない。朝起きると必ず部屋に長い髪の毛が散らばっている。自分の髪ではない。職場でそのことを話すと、後輩が冗談交じりの口調で「それ、呪われてるじゃないですか?」と言いだした。そんな非現実的なことは信じてい...
ちいさな物語

#190 掛け軸の中から

祖父が亡くなり、古い家を整理していると一幅の掛け軸が出てきた。
墨で描かれた山水画。穏やかな山々と静かな川の流れが広がり、遠くには霞がかかっている。なかなか見事で美しい軸だった。しかし、その掛け軸を掛けて以来、夜になるとどこからか水の音が聞...