ちいさな物語 #224 水曜日だけの魔法使い 僕の能力は週に一度、水曜日にだけ使える。名前は『ウィークデイ・ウィザード』。中二病全開の名前だが、実際のところ、あまり役に立つ能力ではない。月曜や火曜に襲われても何もできないし、木曜や金曜に困っている人に出会っても、助けることすらできない。... 2025.05.08 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #223 眠れぬ夜の博物館 静かな街に、時計台が十二時の鐘を響かせた。月明かりの下、僕は深呼吸をして、そっと博物館の門を押した。ここは、子供の頃から僕が一番好きな場所だった。昼間は人々で賑わい、笑い声と足音が絶えないが、真夜中には何かが起きるという噂が密かに広まってい... 2025.05.07 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #222 空間のひずみに落ちた人たち 「ここは空間のひずみに落ちた人たちが、とりあえず集まる場所です」目を覚ましたとき、私は灰色の部屋のソファに座っていた。目の前に座る男性が穏やかな口調で告げた。彼は上品なスーツを着て、眼鏡越しの瞳は優しく輝いている。「空間のひずみ……って?」... 2025.05.07 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #221 ループしている 「さっきもここ通らなかったか?」時計は23時を回っていた。繁忙期の残業を終え、フロアの電気を落として帰ろうとしたとき、ふと気まぐれで非常階段の方へ回る。しかし階段の扉は開かなかった。不審に思いながら廊下を戻ると、見慣れた観葉植物と給湯室がま... 2025.05.06 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #220 現代版・稲生物怪録 最初に部屋に現れたのは、髪の毛をだらりと垂らした若い女だった。深夜の一時、男はベッドでスマホの画面を眺めていた。部屋の隅から女が這い出し、ゆっくりと近づいてくる。だが、男はスマホをスクロールしながら、彼女にちらりと目をやっただけで呟いた。「... 2025.05.06 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #219 世界を救った臭い靴 「靴を脱げ、勇者よ!」長老の真剣な声が響くと、僕は困惑した表情で自分の足元を見た。靴?「早く、その靴の臭いで世界を救うのじゃ!」「いや、待ってくださいよ。何を言ってるんですか?」そう言い返した僕の前に、黒い霧のような怪物が迫ってきた。目の前... 2025.05.05 ちいさな物語異世界の話
SF #218 新天地の孤独 目覚めた瞬間、僕は凍えるような寒さと眩しい光に包まれていた。意識が少しずつ鮮明になり、ゆっくりと目を開ける。薄暗いキャビンの中、コールドスリープのカプセルが整然と並んでいた。「乗務員ナンバー14、目覚めを確認。おはようございます、アンソニー... 2025.05.05 ちいさな物語SF
ちいさな物語 #217 夢屋ユメコ 「こちら、お客様の今夜の夢チケットになります」カウンターの奥から女性が差し出してきたのは、淡いピンク色の厚紙だった。“初恋リピート夢:シナリオ型/記憶連動モード/時間:90分” と印字されている。夢を選んで眠る。それは今や、都会で働く人々の... 2025.05.04 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #216 あの角を曲がると、自販機がある その自販機は、決まって夜中の二時過ぎにしか現れない。駅から少し離れた住宅街の裏路地。昼間に歩いても、そこに自販機などない。ただのブロック塀と、ゴミ集積所と、草の伸びた空き地があるだけだ。だが、ある夜、私は残業帰りにその道を通った。ふと、曲が... 2025.05.04 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #215 額の刃 この町の人々は、めったに怒らない。満員電車で押されても、店員に無視されても、上司に理不尽なことを言われても、口元をひきつらせて、じっと堪える。なぜなら、「キレる」と、額が割れるのだ。バカな話のように聞こえるが、実際にそうなる。ひび割れた額の... 2025.05.03 ちいさな物語変な話