2025-05

ちいさな物語

#214 見える

「ねえ、私、幽霊が見えるんだよ」そう言ったのは、友達の茉莉だった。放課後の教室。西日が斜めに差し込み、机の影が長く床を這っていた。私は茉莉のその言葉に、何も言わずに頷いた。肯定でも、否定でもない、ただの曖昧な反応。「廊下の突き当たり、非常階...
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#213 神さまの座布団

これはの、わしのばあちゃんが、そのまたばあちゃんから聞いたという話じゃ。昔々、山のふもとに「木長こなが村」っちゅう、小さな村があったんじゃ。田んぼと畑と、ちょっとした神さまがおるだけの、静かなところじゃった。この村ではな、毎年秋になると「神...
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#212 四つ足

その道は、職場からアパートへの帰り道にある。駅前の明るい通りを抜け、スーパーの裏手を通り、古びた橋を渡って、神社のわきの細道へ入る。そこからが、例の“暗い道”だ。街灯はある。だが、間隔が空きすぎていて、道の途中からは、闇が勝っている。その闇...
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#211 名探偵の探しもの

探偵・御堂零士みどうれいじと初めて会ったのは、僕が働くカフェ「雨宿り」でのことだった。その日も静かな午後だった。雨が降り出したので、僕は表の看板を引っ込めようとしていた。そこに、濡れたトレンチコートを着た男がふらりと現れた。「温かい紅茶を」...
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#210 究極の鼻ティッシュ選手権

ある朝、僕は唐突に鼻血を出した。それは突然で、理由もなく鼻の奥から温かい感触が流れ落ちてきたのだ。慌てて洗面所に駆け込み、急いでティッシュを取って鼻に詰め込む。鏡を見てみると、鼻から白いティッシュの塊が不格好に飛び出している。まったく美しく...