2025-06

ちいさな物語

#296 幽霊探偵あらわる

「頼むよ、俺が見えるのはお前だけなんだ!」必死の形相で俺にすがってきたのは、自ら「死んだ」と言い張る男――山岸拓也だった。俺はただ呆然と立ち尽くす。俺だって幽霊なんか好き好んで見たくない。けれど生まれつき見えてしまう体質なのだから仕方ない。...
ちいさな物語

#295 月下のマネキンたち

郊外にあるその廃墟は、かつては賑やかな繁華街の中心にあった百貨店の跡地だった。華やかなネオンと人々の活気が溢れていたはずの建物は、今では朽ち果て、ひっそりとした不気味な沈黙に包まれている。この場所には幾つもの都市伝説があった。その真相を確か...
ちいさな物語

#294 三つの扉

古い屋敷の奥、埃まみれの廊下の突き当たりに、三つの扉が静かに並んでいた。噂には聞いたことがあったが、本当にあるとは思わなかった。金色、銀色、そして黒――いずれも古びた装飾がなされているが、妙に目を引く輝きを放っている。私は親戚の遺品整理の手...
ちいさな物語

#293 永遠のダンスホール

蛍光灯が切れかけた部屋で、明かりがチカチカと不規則に点滅していた。その青白く不安定な光は、部屋の中にいるすべての物を奇妙に歪ませて見せる。薄汚れた壁紙、古いソファー、積み重ねられた雑誌の束――どれもが陰鬱なリズムで瞬いていた。男はふと立ち上...
ちいさな物語

#292 始祖鳥の夜間飛行

それは、ひっそりと静まり返った夜の博物館で起きた。展示室の奥、始祖鳥の骨格標本が眠るガラスケースの前を、夜警の坂本は巡回していた。ほんの僅かな違和感――空気の流れがわずかに変わったかのような感覚が、彼の足を止めさせた。懐中電灯の光を向けると...
ちいさな物語

#291 小さな木こりと白い狼

むかしむかし、ある深い山奥の村に、力のない小さな木こりがおったんじゃ。名前を吾作というてな、村で一番ちっこい身体じゃったが、働き者で心根の優しい男じゃった。ある日、吾作が山で道に迷ってしまったんじゃ。日も暮れかけ、途方に暮れておったところ、...
ちいさな物語

#290 繰り返される日常アニメからの脱出

目覚めて時計を見ると、毎朝決まって午前7時30分。
窓の外では必ず同じ小鳥がさえずり、同じ車が家の前を通る。「あれ、今日も昨日と同じだな」最初はそんなもんかと思っていた。しかし、何日経っても何も変わらない。学校に通い、同じ友達と話し、同じよ...
ちいさな物語

#289 俺は勇者の仲間になりたかった

俺は勇者に憧れていた。子供の頃からのゲームオタクで、勇者たちの冒険物語に夢中。いつか必ず勇者の仲間として魔王を倒す――その夢を叶えるために、俺は可能な限りあらゆる修行を積んだ。そして、交通事故からの異世界転生と、とんとん拍子に話は進む。転生...
SF

#288 宇宙人だらけのブラック企業

念願の就職先が決まった。あこがれだったIT企業。だが、初日から違和感だらけだった。朝の朝礼では、全員が大きな声で「ビジネス! 宇宙! 発展!」と叫ぶ。何かの冗談かと思ったが、誰も笑わない。会議室のホワイトボードには見慣れぬ記号と数字の羅列。...
ちいさな物語

#287 洗面器の中の声

「うわっ、なんでお前、洗面器かぶってんだよ!」深夜のコンビニ、俺の目の前に現れたのは大学の友人・拓也だった。いつもは理論派で冷静沈着。課題提出前でもテンパることのない男が、堂々と洗面器を頭にかぶって突っ立っていた。「え? お前、何やってんの...