ちいさな物語 #276 笑う城 深い森の奥、鬱蒼とした樹々の向こうに、古びた城がひっそりと佇んでいる。 その城は数百年前に滅んだ王国の遺物であり、地元の人々からは不吉な噂が絶えなかった。噂の内容はこうだ。城に入った者はみな、不思議な『笑い声』を聞くという。壁が、床が、天井... 2025.06.09 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #275 側溝の小人 通学路の途中で、ふと小さな声を耳にした気がして立ち止まった。「あの……ちょっと、助けていただけませんか?」周囲を見回したが誰もいない。気のせいかと思いかけたが、再びか細い声が聞こえた。「ここですよ、ここ!」声は僕の足元から聞こえていた。側溝... 2025.06.09 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #272 おじいちゃんのペットドローン 「ペットがドローンなんて、冗談じゃない!」そう言って祖父がドローンに箒を振り回したのは、つい三か月前のことだ。世間では、ドローンがペットとして急激に流行りだしていた。猫型や犬型のロボットとは違い、ドローンはあくまでもドローンの形をしている。... 2025.06.05 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #271 風の旅路 「どうして私がこんな無計画な男と旅をする羽目になったのだろう」魔道士エルドは深いため息をついた。彼の前で陽気にリュートをかき鳴らしているのは、楽士のジーノ。天性の放浪者である彼は、旅する町々で歌と酒を楽しみながら自由気ままに生きている。一方... 2025.06.05 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #270 イグアナ通学路 朝、目を覚ましてカーテンを開けると、いつものように巨大なイグアナが庭にいた。俺は制服に着替え、トーストをくわえながら外へ出る。イグアナはすでに俺を待っていた。「おはよう、グスタボ」そう、俺はこいつをグスタボと呼んでいる。名前の由来はよく覚え... 2025.06.04 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #269 仮病師の奥義 「仮病は、他人に知られないことが最低限のマナーである」そう語るのは、倉持朔太郎くらもちさくたろう、三十七歳。自称・仮病師。正式な職業ではない。しかし、彼の中では仮病とは一種の“礼儀作法”として確立されていた。ズル休み――その言葉には嘘と怠慢... 2025.06.04 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #268 バカ発見装置 「あなたは、バカです」街中に置かれた奇妙な機械が、無情な声でそう告げた。それはある日突然、世界各地に現れた『バカ発見装置』だった。使い方は単純だ。装置に手をかざすだけで、その人が『バカ』か『無知』か判定される。最初は誰もが冗談半分だった。人... 2025.06.03 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #267 パンツ大戦争、午前二時 深夜二時、町は眠っている。だが、眠っていない場所もある。たとえば、駅前のコンビニ。自動ドアが、ピローンと音を立てて開いた。「いらっしゃいませー」とレジの夜勤バイトの福与ふくよは、半分寝ているような声であくびをかみ殺した。店内は誰もいない。B... 2025.06.03 ちいさな物語変な話