2025-07

ちいさな物語

#324 幽霊の相手をするおじさんの話

「あの古びた商店街で見かけるおじさん、なんか普通じゃない気がしてさ。聞いてみたら、幽霊の相手が仕事だって言うんだよ」俺が大学生だった頃、地元に帰るたびに通る商店街があったんだ。昼間でも人通りが少なくて、どこか寂れた感じの場所だった。そこの片...
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#323 共鳴の檻

それは、たまたま見つけた小さなオンラインサロンだった。「ここなら、あなたの本当の声が届く」そんな文句に惹かれ、俺はそのサロンに足を踏み入れた。最初は、心地よかった。誰もが俺の考えに賛同し、意見を交換するたびに「わかる」「その通りだ」「もっと...
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#322 終わらない物語

夜が更けるほどに、私は本の世界に没頭していた。読み進めても読み進めても、物語は終わらない。奇妙な予感が胸をよぎる。古書店で偶然見つけたその本は、表紙に「物語は繰り返される」とだけ書かれていた。著者名も出版社も記されていない、不気味なほど無機...
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#321 赤い目の女

それは突然、小さな村を襲った。ある日、最初の犠牲者が出た。農作業中だった老夫婦の夫が、突然苦しみだし、その日の夜には息を引き取ったのだ。死因はわからず、村でただ一人の医師である私も首をかしげるばかりだった。ただ、死の間際に彼の体には不気味な...
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#320 天使がうちに降りてきた

雲間から一筋の光が降りてきたとき、なんとなく予感があったんだ。「何かが始まるな」ってね。それは、いつもの昼下がりだった。空が急に暗くなったかと思ったら、雲の隙間からまばゆい光が差し込んできた。その光の中に、何かがいた。いや、誰かと言うべきか...
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#319 夜の行商人

夜道を急いでいたら、「おひとついかが?」という声をかけられたんです。振り返ると、そこには異様な雰囲気の行商人が立っていました。月明かりの下で見るその姿は、年齢も性別もよく分からない。影のように痩せ細った体を黒いマントで覆い、顔には深くフード...
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#318 書庫の奥に眠るもの

その書庫は、図書館の地下深くにありました。一般公開されることはなく、特別な許可を得た研究者だけが入ることを許されている場所です。私はある研究のために、特別に入室を許可されていました。薄暗い部屋に並ぶ古い木製の棚は、黴のような匂いを漂わせ、時...
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#317 背後のブロッコリー

おかしいんだ。背後霊って、もっとこう不気味なものだろ?  でも俺に取り憑いてるのはブロッコリーなんだ。しかも妙に喋る。最初にその存在に気がついたのは、仕事帰りの電車の中だった。立っていると、首筋の辺りに奇妙な気配がする。振り返ってみても、誰...
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#316 刻印を破る夜

もし命と引き換えに望むものが手に入ると言われたら、あなたはどうしますか?その選択を迫られた、あの日のことを今でも覚えています。人生のどん底にいたときです。仕事を失い、借金は膨らみ、家族にも見放され、すべてが終わったような気がしていました。そ...
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#315 魔法の使えない魔道士と飛べないドラゴン

シルグは、村一番の役立たずの魔道士だった。幼い頃から魔力の才能に乏しく、いつも魔法を失敗しては笑われ、誰からも馬鹿にされた。村の者たちは呆れて言ったものだ。「お前の魔法なんて、風に揺れる葉っぱほどの役にも立たないな」だから彼が村を飛び出し旅...