2025-09

ちいさな物語

#405 福龍軒の秘密

福龍軒は、駅から少し外れた路地裏にある。古びた赤い看板、かすれた漢字、灯りの弱い裸電球。初めての人には少し不気味に映るかもしれないが、地元では「隠れた名店」として評判だ。辺鄙な場所なのに客足が途絶えることがない。店主の張さんは寡黙な人物で、...
SF

#404 最後の告白

夜風が静かに吹く中、私は公園のベンチに座っていた。隣には彩花がいる。彼女とは幼い頃からの親友だ。何でも話せる関係だと思っていた――いや、本当はずっと隠していた。「何? こんな夜中に呼び出して。何かあった?」彩花が首を傾げる。彼女の声があまり...
SF

#403 昇降の途中

エレベータの扉が閉まる音は、思いのほか軽やかだった。だが、その先に待つ旅路は軽やかとは言えない。地上から宇宙ステーションまで、数時間かけて上昇する。「長いなあ」隣でつぶやいたのは、作業着姿の中年の男だった。額に汗が浮かんでいるが、慣れている...
ちいさな物語

#402 戦場の絵の具

少年がそれを拾ったのは、戦場の外れだった。瓦礫と灰に覆われた大地の隅、泥に半分埋もれるようにして転がっていた古びた木箱。蓋を開けると、中には色あせた絵の具が並んでいた。赤、青、緑、黒。ただそれだけ。しかし、どの色も普通の絵の具とは違う、奇妙...
ちいさな物語

#401 秘密戦隊父と母

押入れの掃除なんて、正直気が進まなかった。古い布団やら黄ばんだ雑誌やら、どうせガラクタばかりで大変なのは目に見えていた。ただ、捨てられない大量のマンガ本をしまう場所がほしいと言ったら、押入れを片付けたら、空いたスペースを使っていいと言われた...
ちいさな物語

#400 罰ゲームで魔法少女になるオッサン

商店街の組合の飲み会で軽率なことを言ったのが、そもそもの間違いだった。「おしっ、負けたやつ、コスプレして販促な!」「いいですねっ! 商店街の売上もアップするかもです!」冗談で言ったはずのその言葉に若手連中もノリノリだ。そして始まる謎の賭け麻...
ちいさな物語

#399 安定の三角形

恋の三角関係。誰もが一度は耳にする、恋愛の泥沼ワード。でも俺が体験したのは、複雑すぎてドラマにも漫画にもできない代物だった。まず登場人物を整理しよう。俺、タカシ、幼馴染のユウジ、そして転校生のミカ。この三人で三角関係――まあ普通に聞けば「青...
ちいさな物語

#398 光の怪談

普通、怪談といえば暗い夜道とか、薄暗い廃墟とかを想像するだろ?でもな、俺が体験したのは逆だったんだ。「明るすぎる場所」ってのが、いちばん怖かったんだよ。あれは学生のころ。友人たちと夜の街をふらついていて、ひとりで帰ることになった。夜十時を過...
ちいさな物語

#397 観覧車と物語

あれは夏の終わりだったな。辺鄙なところに小さな遊園地を見つけたんだ。こんなところに遊園地があるなんて知らなかった。しかも夜まで営業しているなんて変わっている。その遊園地に入ってしまったのは偶然で、導かれるように閉園間際の観覧車に乗ったんだ。...
ちいさな物語

#396 あのとき出会った子供

あれはもう何年も前の話になるな。俺がまだ駆け出しの冒険者だった頃、仲間と共に異世界の荒野を旅していたときのことだ。ある街道沿いの村に立ち寄ったとき、ひょっこり顔を出した子供がいた。
年の頃は十歳くらいだろうか。痩せぎすで、けれど目が妙に澄ん...