2025-09

ちいさな物語

#434 川の大橋ものがたり

むかしむかし、とある里に大きな川が流れておった。その川は流れも早く、雨が降ればすぐに氾濫して、里の人々はたびたび困らされていた。とりわけ川を渡るのが大変でな、舟を使えば流され、泳げば命を落とす。里と里とをつなぐ道はその川でぷつりと途切れてお...
ちいさな物語

#433 唐突にレフェリー&実況

最初にその「連中」を見たのは、駅前のロータリーでした。タクシーの順番を巡って、酔っ払いの中年とサラリーマンが口論していた。どこにでもあるような揉め事です。どっちが先に並んでいたとか、嘘だとか。声を荒らげ、互いに指を突きつけていたその瞬間、聞...
SF

#432 みらいさま

むかしむかし、ある山あいの村に奇妙なものが落ちてきたそうな。夜の空が昼のように明るくなり、どーんと火の玉がすっと降りてきて、畑の真ん中に黒い箱を残したのじゃ。村人たちは驚いて集まり、その箱を囲んだ。「これはなんじゃ」「火薬か、それとも鬼の道...
ちいさな物語

#431 未来を変えた枝豆

あの日、僕が居酒屋で枝豆をつまんでいただけで、あんなことになるとは思わなかったんです。昼間からビールの泡をすすりながらまったり。何気なく枝豆を押し出した瞬間、豆がつるりと飛び出したんですよ。それがぴゅんと隣の席へ飛んでいって、見知らぬサラリ...
ちいさな物語

#430 銀杏並木の迷路

仕事帰り、ふと遠回りしたくなった。駅までの道を逸れて、人気の少ない路地に足を踏み入れた。その先に銀杏並木が広がっている。それは、どこかの有名な観光地みたいに見事な並木道。けれど、人も車もない。まるで世界から切り離されているような静けさだった...
ちいさな物語

#429 後ろの行列

あれは、本当に妙な体験だったんですよ。会社帰りにいつもの道を歩いていたら、後ろから足音が聞こえたんです。最初は一人分の気配でした。まあ、夜道だし誰かが同じ方向に歩いているんだろうと気にしませんでした。でも、その足音がぴたりと僕の歩調に合って...
ちいさな物語

#428 じぃこと俺の日常

いや聞いてくれ、本当におかしくなったんだと思うんだ。俺は昔からアニメ好きだったんだけど、ここ数年は擬人化作品ばかり追いかけてたんだ。戦艦や競走馬が美少女になったり、武器がイケメンになったり、地名がキャラになったりするだろ? そういうのを追い...
ちいさな物語

#427 ぼくの遠足

【9月25日】今日は先生が遠足のことをはなしてくれた。来月のはじめに行くんだって。行き先はまだひみつだけど「ふつうの場所じゃないからお楽しみに」と言ってた。どんなところだろう。ワクワクして、友だちと帰り道にずっとその話をした。【9月27日】...
ちいさな物語

#426 笑いの迷宮

あれは、ほんの出来心だったんです。仕事帰りに見かけた細い路地にふと足を踏み入れました。その路地は他の道とは全然雰囲気が違ったんです。看板もなく、行き止まりのはずなのに、奥に暗いアーチのような入口が口を開けていたんです。まるで「入ってみろ」と...
ちいさな物語

#425 盤上に消える

古びた喫茶店の片隅に置かれた知らないボードゲーム。遊んだ仲間の一人が、次のターンが来る前に姿を消した。ゲームは続き、盤上の駒は消えた友人の席を指し示す。恐怖と好奇心の板挟みのまま、残された者たちはダイスを振る手を止められなかった。(文字数:...