2025-09

ちいさな物語

#414 白い回廊の夢

昼寝をすると、決まって同じ夢を見る。どこまでも続く白い回廊。高い天井には巨大なステンドグラスがはめ込まれ、そこから淡い光が差し込んでいる。夢の中の僕は、その回廊を歩いている。最初は何もなかった。ただ、歩き続けるだけだった。しかし、ある日を境...
ちいさな物語

#413 無限教室

とある大学。文学部、日本文学科、口承文芸ゼミ准教授、相良は研究室のゼミ学生数名を連れて、ある廃校に足を踏み入れた。コンクリートの壁は黒ずみ、窓は割れ、風が吹き込むたびにカーテンの残骸がばさばさと揺れる。入口の看板には「○○市立第三中学校」と...
ちいさな物語

#412 値上げの向こう側

「また値上げかよ……」スーパーのカゴに商品を入れるたび、俺の溜息は深くなる。仕事帰り、夜7時過ぎ。自動ドアが「ピンポーン」と鳴ると、これから見るであろう値札を想像し、もうそれだけで気が重い。スーツ姿のままカゴを手に取り、いつものルートを歩く...
ちいさな物語

#411 レシート除霊師

「また拾ってる……」最初に見かけたのは、駅前のコンビニの前だった。スーツ姿の男が地面に落ちたレシートを、ひとつひとつ丁寧に拾い集めていたんだ。俺は最初、ただの奇行にしか思えなかった。もしくは何かしらの信念でゴミ拾いをしたい人なのか、くらいで...
ちいさな物語

#411 ニンゲンモドキ育成ゲーム

いや、ちょっと変な話をするけどさ、聞いてくれるか?ほら、昔からあるだろ、「育成ゲーム」ってやつ。卵からモンスターが孵ったり、仮想のペットを世話したりするあれだ。俺も子どもの頃にハマってな、学校でこっそりやっては先生に取り上げられたもんだよ。...
ちいさな物語

#410 ファンタジー世界の名探偵

俺の職業は「名探偵」だ。ファンタジー世界では、普通は戦士とか魔法使いとか僧侶とか、そういう職業を名乗る。ところが俺の場合、なぜか職業欄に「名探偵」と書かれていた。最初は笑い者だったよ。「なんだよそれ、ただの冷やかしじゃないか」「モンスター相...
イヤな話

#409 割り勘モンスター

聞いてくれよ。俺が前の会社にいた頃の話だ。飲み会がな、とにかく気が重くて仕方がなかった。理由はひとつ――経理課の鈴木先輩がいるからだ。あの人、酒も食い物も底なしでな。いわゆる食い尽くし系。乾杯するやいなや「ビール10杯! 串盛りも大盛りで!...
ちいさな物語

#408 隣のデスクの男

「え、なんか……全然知らないやつが僕の席のとなりにいるんだけど?」これが、僕が最初に思ったことだった。月曜日の朝。カフェインとエナジードリンクのダブルパンチで無理やり目を開かせて出社した。いつものように自分のデスクに座ろうとしたとき、違和感...
ちいさな物語

#407 メタモルフィット

「……誰だ、これ」全身鏡の前に立ち、浩介は息をのんだ。鏡の中の男は確かに自分のはずだった。だが、以前の自分とはまるで別人のようだ。二重あごは消え、ぽっこり出ていた腹は平らになった。顔の輪郭は鋭く、目つきまで変わった気がする。ずっと履けなかっ...
ちいさな物語

#406 ホラー道場深夜の稽古

真夜中の二時。布団の中で動画を眺めていた俺の前に、唐突にそれは現れた。白い服、長い黒髪。いかにも幽霊という見た目だ。だが、問題は「演技」だった。「う、うら……め……しやぁ……」語尾が上ずり、間の取り方も悪い。足はしっかり床についており、ただ...