2025-11

ちいさな物語

#524 きのこ侵略

森の入り口に、見たこともない色のきのこが生えていた。そのことには意外と多くの人が気づいていたが、それが胞子を吐き出し始めた瞬間から、すべてが狂い始めたのだった。はじめは地元ニュースでのんきに「珍しいきのこです!」なんて報道していたが、翌週に...
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#523 山からなんか来た

山からなんかきた日、俺はちょうどプリンを食べていたが、そのことはこのエピソードにまったく関係ない。とにかくそれは突然、町の放送スピーカーから始まった。「えー……山から……なんか来ています。以上」以上じゃない。「なんか」ってなんなんだよ。熊か...
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#522 永遠にかくれんぼ

夏の夕暮れ、校庭の裏で始まった、ただのかくれんぼがすべての始まりだった。私が十歳のとき、同級生の子供たちと遊んでいた。鬼になったハルは目をつぶって十秒数えはじめ、私たちは散り散りに逃げた。その日、私は用具倉庫の裏に身を潜めていた。鬼が動き出...
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#521 山賊と肩甲骨と納豆

あの日、山に入ったのはほんの気まぐれだった。ちょっと散歩、くらいのものだ。秋の終わりで、木々は赤く、風がやけに澄んでいた。弁当の包みには、祖母が持たせてくれた小さな納豆の包みが入っていた。「山で食う納豆はうまいぞ」と祖母は笑っていた。とりあ...
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#520 祝祭のティールーム

そのティールームに入ったのは偶然でした。会社帰り、雨に追われるようにして駅前の裏道へ入り、古いレンガの隙間から漏れる明かりに引き寄せられたんです。木製の小さな看板には「景色が見えるお茶のお店」と書かれていました。その意味がわからないまま扉を...
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#519 隣の鳩

ベランダや手すり、エアコンの室外機、その隅々まで白や灰色の斑点が散らばっている。昨日の夕方に掃除したばかりなのに、もうこんなに汚れている。「チッ……」俺は舌打ちして窓を閉めた。原因はわかっている。隣に住む、あのじじいだ。じじいのベランダには...
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#518 浮かんだ数字

いや、これは本当にあった話なんだ。冗談に聞こえるかもしれないけれど、今でも思い出すと背筋が冷える。最初にそれに気づいたのは、会社帰りのコンビニ前だった。コンビニから出てくる人の頭の上に、数字が浮かんでいたんだよ。薄く揺れる赤い光の「23」と...
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#517 黄金の配合

古い家を相続したのは三か月前だった。祖母の家で、子供のころに何度も遊びに来ていたはずなのに、妙に記憶と違っていた。思っていたより大きくない。天井が低い。台所の窓から見える庭も小さく見えた。要するに自分の体の方が大きくなったのだ。祖母とは電話...
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#516 止まった街と時計店

タクマがその店の前を通りかかったのは、深夜一時をすぎた頃だった。飲み会の後、終電を逃し、歩き疲れて、とりあえず足を休めようとしたときだ。ふと視界の端で、時計店のショーウィンドウが光った。正確には、光っている気がした。実際にはネオンサインがぼ...
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#515 佐藤事変

駅前の小さな公園に、佐藤が5人そろったのは偶然だった。正確には、偶然という言葉では足りない。「必然だったけれど、理由は存在しない」という、哲学者なら小躍りしそうな種類の現象だった。最初は、ただ同じ名字の者同士(当人たちはそれを知らない)が、...