2025-11

ちいさな物語

#514 午後三時のカラスたち

午後三時、町のスピーカーがいつものチャイムを鳴らすと、カラスたちが電線から一斉に飛びおりた。彼らは咳払いをして、黒い嘴をそろえて前へならえをした。そして音もなく行進を始めた。誰も理由を知らなかったが、誰もがぼんやりとそれを眺めていた。人々は...
ちいさな物語

#513 深夜二時の動画

夜中の二時、眠れなくて動画サイトをだらだら眺めていたんだ。その時、妙に古びたサムネイルが目に入った。「絶対に見てはいけない映像」こういう大袈裟なのは大抵釣りだろうって、軽い気持ちで再生したんだよ。映像は暗く、ノイズだらけだった。廃屋みたいな...
ちいさな物語

#512 うさぎ道の迷い子

村の外れに「うさぎ道」と呼ばれる地下通路があってね、昔から大人たちは「あそこには入るな」と言っていたんだよ。土の匂いがして、ひんやりとした風が流れていてね、子どもにはたまらない秘密の場所だったんだ。その日もカズと仲間たちは探検に出ていた。と...
ちいさな物語

#511 側溝の住人

最初にそれを見たのは、長雨があがった後の湿気の多い朝だった。通勤前に家の前を掃いていたら、足元の側溝のフタがガタリと動いた。猫でも入り込んだのかと思って覗きこむと、そこから人の頭がぬっと出てきた。「うわっ!」とのけぞった俺に何食わぬ顔で「お...
ちいさな物語

#510 階段に海苔巻き

最初に違和感を覚えたのは、駅の階段の踊り場だった。朝のラッシュ、足元を見たとき、そこに海苔巻きが落ちていた。一本まるまる、きれいにラップで包まれている。誰かが昼食用に持ってきたものを落としたんだろうと思った。しかし、踏まれも汚れもしていない...
ちいさな物語

#509 鏡の裏の王国

朝起きて、顔を洗おうとしたら、鏡の中に街が映っていた。最初は、まだ寝ぼけているんだろうと思って、たいして気に留めなかった。だが、しばらく経ってからまた見てみると、そこにまだ街がある。小さな家々が立ち並び、塔のような建物の上で風車が回っている...
ちいさな物語

#508 雨の詩

あの傘を拾ったのは、数年前のことだ。梅雨の終わりの午後で、空はどんより曇っていた。駅前のベンチに、ひとつだけ忘れ物の傘が立てかけてあったんだ。深い藍色の傘。閉じた状態でも、どこか濡れているように見えた。俺はどうしても気になってしまってそれを...
ちいさな物語

#507 伝説の剣、しゃべります

あの日、俺は確かに死んだはずだった。それなのに――気がついたら、俺は鉄の塊になって地面に突き刺さっていた。そう。俺は一本の剣になっていた。青白く光る刃。やけにいわくありげな装飾。「おい、誰かいるか?」反射的に声を出したら、近くにいた若者が腰...
ちいさな物語

#506 眠れない羊の夜

その話を誰にしても、みんな笑って信じちゃくれないんだ。でも俺にとっては、あれは確かに起きたことなんだよ。最初の夜は、ただ眠れなかっただけだった。蒸し暑くて、枕の中までじっとりしててな。寝返りばかり打ってるうちに、気づいたら真夜中になってた。...
ちいさな物語

#505 巨人の肩

あれはもう十年以上前のことだ。俺とカイルはまだ少年で、夢と好奇心ばかりを追っていた。村の北の森の奥に、巨大な人の形をした岩があることは、誰もが知っていた。「巨人の遺骸だ」「いや、古代の神が化けた石像だ」「中には財宝がある」そんな噂ばかりが広...