2025-11

ちいさな物語

#504 時計屋敷の夢

朝、目覚ましの音で目を覚ました。……はずだった。枕元でベルが鳴っている。だが、体が動かない。目を開けると、見慣れたはずの天井がどこか違う。薄暗い部屋。天井には煤けた模様。布団の下の感触は硬い。ベッドじゃない。古い木の寝台だった。「……夢?」...
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#503 途切れた日

その朝は、特に変わったことなんてなかった。いつも通り、7時にアラームを止め、トーストを焦がし、ニュースアプリを開きながらコーヒーをすする。ただ一つだけ違っていたのは、繁忙期のための十連勤で体がぐだぐだになっていることと、Wi-Fiの電波がや...
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#502 スパムと恋と人工知能

件名は「ご利用口座の安全確認について」だった。よくあるスパムだと思って削除しようとしたが、文末にこう書かれていた。「質問がある場合は、このメールに返信してください」その一文に、ほんの少し興味をひかれた。普通は送信専用のメールだから返信するな...
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#501 街路樹の下

うちの近くの通りに、一本だけ妙な街路樹がある。並木道の中で、そこだけ異様に草が生い茂っていた。夏でも冬でも、いつもあの一角だけ、濃い緑色をしている。最初に気づいたのは、去年の秋だった。通勤の帰り道、街灯の下で足元の草がふっと動いた。風なんて...
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#500 引っ張る

重いものを引っ張っている夢を、俺は定期的に見ている。季節に関係なく、年に三、四回ほど。体感では汗だくになっているのに、目が覚めると何ともなっていない。ただ不思議と筋肉痛にはなっている。夢の中では、俺はいつもロープを握っている。先は見えない。...
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#499 影を狩る者たち

俺の名前はリアン。ここでは、俺のような人間を「狩人」と呼ぶ。ただし獣ではなく、森の化物を狩るための狩人だ。この村では、人が生まれると同じ日に犬が一匹生まれる。生まれた人と犬は対(つい)と呼ばれ、どちらかが死ねば、もう一方も同時に死ぬ。だから...