#008 無限こたつ

ちいさな物語

家族四人で囲むこたつ。テーブルの上には湯気の立つ土鍋と、ごく普通だけど魅力的な具材が並んでいる。僕はデザートにと出してきたみかんを片手に、鍋が煮えるのを待っていた。

「このこたつ、居心地いいよね」と妹もみかんをもてあぞびながら言った。僕も同意した。最近買い替えたばかりのこたつは、暖かさが体の芯にまで染み込む感じがして妙に落ち着く。

「こうしてるとまるで宇宙船みたいだな」と僕が言うと、父が笑いながら「何を言ってるんだ」と鍋の中をかき混ぜた。四人が顔を突き合わせて足を突っ込んでいるのは何かの乗り物めいている気がする。
 だが、その瞬間だった。湯気が一瞬、奇妙な模様を描く。まるで星々が渦巻く銀河のような。

僕が見惚れていると、こたつ布団がふわりと揺れた。「何?」と母が驚いて声をあげる。僕は「風が入ったんじゃない?」と言いながら足を動かしたが、床の感触がない。代わりにこたつの布団の隙間から小さな光の粒が浮かび上がった。

もはや家族全員がその異変に気づいていた。父が箸を置き、妹がこたつ布団をめくろうとした瞬間、言葉を失った。こたつ布団の下に広がっていたのは、真っ暗な宇宙だったのだ。星々が輝き、無限に広がる闇の空間。

「これ、どうなるの?」と妹が震える声で言う。母は鍋の湯気を見つめたまま何も答えない。父は立ち上がろうとしたが、こたつがまるで生き物のように足を絡め取り動けなくした。父は動けないなら仕方ないとでもいうかのようにまた鍋をかき混ぜる。つられたように妹が取り皿に肉団子と白菜を取った。母はビールジョッキを傾ける。僕はにんじんと椎茸を取ろうとして父に「それはまだだ」と注意された。

徐々に僕はこたつがただの暖房器具ではないとさとりはじめる。この居心地の良さは、僕たちを逃さないための罠だったのだ。湯気の向こうに星々がまた渦を巻くのが見える。その渦の中に、僕たちはこのまま吸い込まれるのだろうか。そして無限にこの鍋をつつき続けるのだ。

鍋の中を覗き込むと、そこには宇宙の星々のような具材たちがにぎやかに踊り続けていた。

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