あれは確か、火星への2回目の赴任だったと思う。えーっと、地球の暦に換算すると……まあ、とにかく、あの時のことを話そう。
火星ステーションに配属されてからというもの、日々の作業に追われていた。酸素濃度の管理、通信設備のメンテナンス、あとは食料の在庫確認とか、まあ地味な仕事ばかりだ。2回目ってこともあったしね、真新しいことなんて何もないよ。でも、あれにはさすがに驚いたよ。
その朝、私はいつものようにエアロックを点検していたんだが、突然、通信室からアラートが鳴り響いた。音が大きくて心臓が飛び出るかと思ったよ。聞いたことがない種類のアラートだった。急いで通信室に駆け込むと、仲間のマリがモニターを指さして叫んでいた。「ステーションの外で、動いてるものがある!」って。
火星には生物がいないはずだ。だから最初は、センサーの誤作動だろうと思った。でもモニターを見ると、うん、確かに何かが映っていた。小さな影が赤い砂を蹴り上げながら動いている。見間違いかと思って目をこすったけど、影は消えなかった。
「これ、なんだろう?」と誰かがつぶやいた。その瞬間、ステーション全体に不気味な静けさが広がった。あの沈黙は今でも忘れられないな。
その後、全員で慎重に検討した結果、影の正体を確認するため、私ともう一人の隊員が外に出ることになった。正直言うと、足が震えていた。特別臆病なわけじゃないよ。火星の赤い砂漠に出るだけで、広大すぎる風景に飲み込まれそうになるんだ。ましてやあの影だよ。わかるよね?
影があった地点にたどり着くと、そこには小型の探査機が転がっていた。旧式のもので、どうやら長い間砂に埋もれていたらしい。でも、なんで突然動き出したのかは謎だった。探査機をステーションに持ち込んで調べたけど、結局、原因は特定できなかった。見たこともないくらい古い型の探査機で、たぶん、たぶんだよ?まだ人間が火星に来る前に地球から打ち上げて火星の表面を調べていた探査機じゃないかな。そんな古いものが動くわけないんだけど……。まぁ、何かの拍子にシステムが復活したんだろうということで調査を切り上げた。調べてもしょうがないからね。
あの出来事は、今でもよく話題に上がる。火星では日々が単調に思えるけれど、たまにこんな不思議なことが起きる。それが、この赤い惑星で暮らす醍醐味なんだろうなって、私は思っているよ。
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