ちいさな物語

#281 前の席のお客さま、くつろぎすぎです

乗り込んだ新幹線は、ほぼ満席だった。指定席に座って一息つくと、前の席に座った乗客がすぐさまリクライニングを倒した。「おっ、随分と豪快だな……」私は少し窮屈になったスペースで、心の中で呟いた。気になって目を上げると、前の席の乗客は窓際の席に悠...
ちいさな物語

#280 冷蔵庫の中の今日も談論風発

夜、冷蔵庫を開けると中から声がした。「議長、そろそろ本日の討議を始めませんか?」私は一瞬、ドアを閉めて深呼吸し、再び冷蔵庫を開けた。牛乳パックの隣で、タマゴパックがカタカタ震えている。「時間です、議長!」議長? 誰だよ。首を伸ばして冷蔵庫を...
ちいさな物語

#279 スーパーマーケットの地下

その日、私はいつものように仕事帰りにスーパーに立ち寄った。時計の針は夜九時少し前を指し、閉店間近の合図である「蛍の光」が静かに流れている。慌てて食材を選んでいると、野菜売り場の端に、見慣れない小さな看板が目に入った。『地下フロア行きはこちら...
SF

#278 防犯カメラの目論見

地元のショッピングモールでは、防犯カメラの異常が頻繁に起きていた。この防犯カメラはAIが搭載された最新型だったが、高級なため、たった一台しか導入されていなかった。深夜、誰もいないフロアで勝手に動き出し、人のいない方向を執拗に見つめるのだ。設...
ちいさな物語

#277 黒幕のいる地下

大学生活にも慣れてきたある日、僕はちょっと変わった求人広告を見つけた。『黒幕募集:簡単なお仕事です。偉そうに座って、「ククク」と笑うだけ。全身を黒塗りにします。時給1200円。交通費支給』気になる。「黒幕」という響きと「時給1200円」のミ...
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#276 笑う城

深い森の奥、鬱蒼とした樹々の向こうに、古びた城がひっそりと佇んでいる。 その城は数百年前に滅んだ王国の遺物であり、地元の人々からは不吉な噂が絶えなかった。噂の内容はこうだ。城に入った者はみな、不思議な『笑い声』を聞くという。壁が、床が、天井...
ちいさな物語

#275 側溝の小人

通学路の途中で、ふと小さな声を耳にした気がして立ち止まった。「あの……ちょっと、助けていただけませんか?」周囲を見回したが誰もいない。気のせいかと思いかけたが、再びか細い声が聞こえた。「ここですよ、ここ!」声は僕の足元から聞こえていた。側溝...
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#274 闇の覚醒者、コンビニへ行く

最強の覚醒者である俺は、真夜中の闇に紛れ日常を厨二的に変換しつつ、コンビニを目指した。
ちいさな物語

#273 風紋の骨笛

山岳の夕暮れ、言葉の通じない少女を拾った。骨笛と仕草だけが僕らをつなぐ――
ちいさな物語

#272 おじいちゃんのペットドローン

「ペットがドローンなんて、冗談じゃない!」そう言って祖父がドローンに箒を振り回したのは、つい三か月前のことだ。世間では、ドローンがペットとして急激に流行りだしていた。猫型や犬型のロボットとは違い、ドローンはあくまでもドローンの形をしている。...