ちいさな物語

#007 火星ステーションの事件

あれは確か、火星への2回目の赴任だったと思う。えーっと、地球の暦に換算すると……まあ、とにかく、あの時のことを話そう。火星ステーションに配属されてからというもの、日々の作業に追われていた。酸素濃度の管理、通信設備のメンテナンス、あとは食料の...
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#006 あなたのもとへ

あれはもう5年くらい前のことだ。最初にその手紙が届いたのは。ポストを開けたらちょっと古びた封筒が入っててさ。宛名が普通じゃなかったんだ。「いつかあなたのもとへ」ってだけ書いてある。差出人はなかった。中を開けると、薄い便箋に短い文章が書いてあ...
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#005 最後の一杯

禁酒を決めたのは昨日のことだ。だが、今日の晩酌だけは例外にしてやろうと、最後の一杯を注いだ。最後を飾るのにふさわしい酒を昼に準備しておいたのだ。やはり禁酒にも儀式めいた何かが必要だろうと突然思いついたのだ。だが、この一杯で今度こそ終わり。明...
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#004 密林研修

会社の研修で訪れたアマゾンの密林。研修担当者は笑顔で言った。「これから君たちには、自己成長のためのサバイバルを体験してもらう!」社員たちは軽いアウトドア体験だと思い込んでいた。だが、案内されたキャンプ地には食糧も水もなく、社用のノートパソコ...
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#003 そっとしておけば

薄暗い蔵の片隅に、埃を被った古い木箱が置かれていた。箱の表面には奇妙な紋様が彫られ、鍵穴には古びた錠が掛かっている。この蔵を相続した青年直人は、祖父の遺品を整理している最中にその箱を見つけた。箱には紙切れが貼られ、「決して開けるな」とだけ書...
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#002 永遠の月曜日

月曜日の朝、吉田は重い体を引きずるようにしてオフィスに向かった。週末は一瞬で過ぎ去り、気づけば始まる憂鬱な1週間。今週もまた、終わりの見えない残業と上司の叱責が待っているに違いない。「これがまだまだ続くのか……」まだ二十代の吉田にとって先は...
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#001 蝶々

今思えば夢だったかもしれない話なんだけど、それでもいいかな。あれは、まだ子供のころだった。えーっと、確か夏休みが終わる頃だったと思う。私の家は田舎にあって、周りには大きな森が広がっていた。普段から森で遊ぶことが多かったんだけど、その日はちょ...