ちいさな物語 #256 猫のしっぽの先で世界は回る 世界が猫に支配されているという、馬鹿げた陰謀論を聞いたことはあるだろうか。都市伝説やオカルト話に興味のない人であっても、どこかで一度は耳にしたことがあるはずだ。そう、「猫は世界を裏から操っている」という奇妙な説だ。もちろん、これは単なる冗談... 2025.05.26 ちいさな物語不思議な話
SF #255 幸福化社会にて、鳥は歌わず 働かなくていい。食事も、運動も、睡眠すらも必要ない。人工代謝調整、神経伝達最適化、精神恒常性維持装置。技術の進歩によって人間の「必要」はすべて満たされた。娯楽は無限、痛みは除去され、争いも淘汰された。幸福化と名付けられたこの新しい時代の到来... 2025.05.26 ちいさな物語SF
ちいさな物語 #254 星の卵を孵す方法 星の卵を飼うことにした、とエリが言ったとき、周りの誰もが不思議そうな顔をした。「星の卵って何?」母親が朝食のパンを焼きながら聞くと、エリは得意げにバッグの中から透明な水晶のようなものを取り出した。手のひらにすっぽり収まるサイズで、卵といえば... 2025.05.24 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #253 深夜の回転寿司屋 「駅裏にある深夜の回転寿司屋は何か変らしい」そう噂を聞きつけた僕は、金曜の夜、興味本位で閉店後の回転寿司屋を見に行ってみた。なぜか明かりがついていて、自動ドアが開いたままになっている。そっと中をのぞくと、普通に営業しているかのように明るかっ... 2025.05.24 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #252 名探偵の背後で謎は解ける 「犯人は……あなたです!」 探偵・篁涼真たかむらりょうまがその指を静かに向けたとき、取材陣のシャッター音が一斉に響いた。 事件はまたしても、名探偵の華麗な推理によって解決された――ことになっていた。僕はその隣で拍手を送る。もちろん、控えめに... 2025.05.23 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #251 マリー・ベル嬢のお茶会へようこそ 丘の上に、古い洋館がある。レンガの壁は苔むし、鉄製の門はキーキーと軋む音を立てる。しかしそこには、今でも人の気配があった。――金曜の午後三時。風がやみ、空気が甘くなる。そう、マリー・ベル嬢のお茶会の日だ。「まあまあ、お待たせしてごめんなさい... 2025.05.23 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #250 そ 近所のコンビニが、今朝から「そ」の位置になっていた。何が「そ」なのか最初は誰にもわからなかった。ただ、朝、コンビニに行ってみると、入り口の自動ドアの前で、店員が全員、右手を耳の横に、左足を半歩前に出し、無言で「そ」としか言いようのないポーズ... 2025.05.22 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #249 五月闇の雨宿り 梅雨入りしたばかりの夜は、やわらかいはずの町の灯りさえ、空に溶けていく。空は厚い雲でふさがれ、月も星も気配すらない。空からは細く長い雨がしきりに降りそそぎ、町全体が水のヴェールで覆われているようだ。この時期の夜を、「五月闇」と呼ぶらしい。た... 2025.05.22 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #248 エレベーターのボタン全部押す係 夜のマンションには謎の「ボタン全部押す係」が現れるようだ。最上階から地下まで、全部の階を律儀に巡る彼(あるいは彼女)は、一体何者なのか? そして、住人たちはなぜか誰も驚かない――。 「また全部押されてる……」 エレベーターの扉が開くと、見慣... 2025.05.21 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #247 屋根裏の住人 古い一軒家に引っ越して三か月が経つ。風呂場の換気扇はうるさく、壁は薄く、キッチンの床はぎしぎしと鳴る。だが駅近で家賃も安い。築六十年の割にはお得な物件だと自分に言い聞かせていた。最初に違和感を覚えたのは、夜中の天井の向こうから聞こえる“足音... 2025.05.21 ちいさな物語怖い話