SF

#226 ほしから来たひと

あんたに話しておこうかね。この村の話さ。もう、誰も覚えていないかもしれんけど、あたしゃちゃんと見たんだよ。忘れるもんかい、あんな人。あれは、わしがまだ小娘だったころ――そうさね、戦のあとで、村にもやっと灯りが戻ってきたころだよ。ある晩、山の...
ちいさな物語

#225 狐面売りの男

祭りの夜は、人々が浮かれているせいか、普段とは違った空気が漂っている。夏の生温かい風に乗って、屋台から流れてくる甘ったるいベビーカステラの匂いやイカ焼きの香ばしい匂いが鼻をくすぐった。僕はひとりで、人混みの隙間を縫うように歩いていた。毎年こ...
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#224 水曜日だけの魔法使い

僕の能力は週に一度、水曜日にだけ使える。名前は『ウィークデイ・ウィザード』。中二病全開の名前だが、実際のところ、あまり役に立つ能力ではない。月曜や火曜に襲われても何もできないし、木曜や金曜に困っている人に出会っても、助けることすらできない。...
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#223 眠れぬ夜の博物館

静かな街に、時計台が十二時の鐘を響かせた。月明かりの下、僕は深呼吸をして、そっと博物館の門を押した。ここは、子供の頃から僕が一番好きな場所だった。昼間は人々で賑わい、笑い声と足音が絶えないが、真夜中には何かが起きるという噂が密かに広まってい...
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#222 空間のひずみに落ちた人たち

「ここは空間のひずみに落ちた人たちが、とりあえず集まる場所です」目を覚ましたとき、私は灰色の部屋のソファに座っていた。目の前に座る男性が穏やかな口調で告げた。彼は上品なスーツを着て、眼鏡越しの瞳は優しく輝いている。「空間のひずみ……って?」...
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#221 ループしている

「さっきもここ通らなかったか?」時計は23時を回っていた。繁忙期の残業を終え、フロアの電気を落として帰ろうとしたとき、ふと気まぐれで非常階段の方へ回る。しかし階段の扉は開かなかった。不審に思いながら廊下を戻ると、見慣れた観葉植物と給湯室がま...
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#220 現代版・稲生物怪録

最初に部屋に現れたのは、髪の毛をだらりと垂らした若い女だった。深夜の一時、男はベッドでスマホの画面を眺めていた。部屋の隅から女が這い出し、ゆっくりと近づいてくる。だが、男はスマホをスクロールしながら、彼女にちらりと目をやっただけで呟いた。「...
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#219 世界を救った臭い靴

「靴を脱げ、勇者よ!」長老の真剣な声が響くと、僕は困惑した表情で自分の足元を見た。靴?「早く、その靴の臭いで世界を救うのじゃ!」「いや、待ってくださいよ。何を言ってるんですか?」そう言い返した僕の前に、黒い霧のような怪物が迫ってきた。目の前...
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#218 新天地の孤独

目覚めた瞬間、僕は凍えるような寒さと眩しい光に包まれていた。意識が少しずつ鮮明になり、ゆっくりと目を開ける。薄暗いキャビンの中、コールドスリープのカプセルが整然と並んでいた。「乗務員ナンバー14、目覚めを確認。おはようございます、アンソニー...
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#217 夢屋ユメコ

「こちら、お客様の今夜の夢チケットになります」カウンターの奥から女性が差し出してきたのは、淡いピンク色の厚紙だった。“初恋リピート夢:シナリオ型/記憶連動モード/時間:90分” と印字されている。夢を選んで眠る。それは今や、都会で働く人々の...