ちいさな物語 #143 どこまでも続く夜道で 少女は歩いていた。街灯の少ない夜道。足音だけが心細く響いていた。後ろを振り返っても、誰もいない。前に進んでも、何も変わらない。曲がり角を三回曲がれば元の道に戻るはず。けれど、五回でも十回でも、少女は同じ街角へ戻ってきた。「ここ……どこ?」自... 2025.03.28 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #142 ぶさいく犬の幸福論 あの日、ペットショップの片隅で一匹の犬と目が合った。いや、目が合ったというより、あまりにも気になって目が離せなかった。なにせその犬はとびきりブサイクだったのだ。鼻は潰れたように低く、目は変に離れている。耳も両方が変な方向に折れていて、足の長... 2025.03.28 ちいさな物語変な話
SF #141 ホーム ◆第8期惑星歴215年・第3恒星航路41日目今日、私は地球に降り立った。この任務に志願したとき、同僚たちは皆、奇異な目で私を見た。「なぜ、あんな無人の星へ?」その理由は私にもよくわからない。ただ、“地球”という響きに、抗えない引力のようなも... 2025.03.27 ちいさな物語SF
ちいさな物語 #140 涙を拾う赤鬼の話 これはな、わしの村に昔から伝わっとる不思議なお話じゃ。その村のはずれにある山には、一匹の赤鬼が住んどった。 鬼と聞けば怖いかもしれんが、この赤鬼は心の優しい、ちいと変わった鬼じゃった。村で誰かが悲しくて涙を流しとると、赤鬼はどこからともなく... 2025.03.27 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #139 我らNPC、ニセ勇者御一行様 「我々って、もしかして脇役ですか?」そんな疑惑が冒険の最中に浮上したのは、仲間たちが焚き火を囲んだある夜のことだった。一応、魔王討伐を掲げてはいるものの、勇者でも賢者でもない、戦士でもない。はたまた謎めいた美しき姫君でもなければ、魔王討伐を... 2025.03.26 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #138 芽吹く荷物 その荷物が届いたのは、雨の降る夕方だった。玄関の前に置かれた段ボール箱。宛名には僕の名前と住所が書かれていたが、差出人の欄はかすれて読めない。通販を頼んだ覚えはないが、もしかしたら家族の誰かが注文したものを仕送りとしてそのまま転送した、とか... 2025.03.26 ちいさな物語変な話
SF #137 燃やす者 「また燃えてるな、タクミくん」深夜、カズマはモニター越しに、SNSの炎上トレンドを眺めていた。 そこには、またしても“迷惑系YouTuber・タクミ”の名があった。 今度は老人を突き飛ばす動画。笑い声、スローモーション、煽り字幕。 炎上は爆... 2025.03.25 ちいさな物語SF
ちいさな物語 #136 事故物件専門不動産屋 「どんな事故物件でも取り扱っております」そう掲げた小さな不動産屋に、またひとり奇妙な客が現れた。細身で色白、瞳の奥に妙な光を宿した男。彼は入ってくるなり、まっすぐ店主・長谷川を見つめて言った。「事故物件、できるだけヤバいやつを」長谷川は慣れ... 2025.03.25 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #135 山の神様とおむすび畑 昔々、ある山のふもとの村での話じゃ。その村は山深くての、猟師の獲物になる獣や山の恵みもあって、年中食べ物に困ることはなかった。しかし、ある年、大きな干ばつがあったそうな。畑は枯れ果て、米も野菜も取れなくなり、たのみの山の恵みもさっぱりで、村... 2025.03.24 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #134 失敗したテレポート ある日突然、自宅の浴槽に半分だけ転送された男が現れた。彼は微笑みながら、「あと半分、探してくれませんか?」と告げた。「すみません、あと半分を探してもらえますか?」自宅の浴槽から突然上半身だけ現れた男が困った顔で笑っている――。(文字数:) ... 2025.03.24 ちいさな物語変な話