ちいさな物語 #366 サレムの市の砂時計師 あれはもう何年も前の話になるけど、今でも時々ふと思い出すことがあるんだ。ちょっと不思議な話で、信じてくれるかどうか分からないけどさ。俺が旅をしていた頃のことだ。あの頃は、あてもなく旅をするのが好きでね、 知らない街を訪ねては、数日間過ごして... 2025.08.06 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #365 バグに気づくな 大学を出て、久しぶりに地元に戻ったのは夏祭りが近い頃だった。懐かしい町並みに、見慣れないカフェだけがひときわ目立っていた。ふと立ち寄ったその店で、俺は信じられない光景を目にした。カウンターでアイスコーヒーを注文しているのは、高校時代に交通事... 2025.08.06 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #364 放課後の消失点 夕陽が校舎を赤く染める頃、私はひとり屋上のフェンスに寄りかかっていた。風は冷たく肌を刺すようだった。何もかもが微妙にズレてうまくいかない。クラスのいじめを傍観している。成績は中の中から上がりも下がりもしない。部活動も楽しいとは思えない。友達... 2025.08.05 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #363 朝活のテーマ 朝5時、都内のとあるカフェ――。夜明け前の静寂を破るべく、今日も「意識高すぎるサラリーマン」たちがぞろぞろとやって来る。スーツ、MacBook、論文プリント、手描き図解、タブレット端末、プロテインのボトル。「おはようございます、今日も『朝』... 2025.08.05 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #362 迷宮の宝 迷宮の奥へ進むたび、空気が冷え込み、静寂が耳を刺す。だが私は剣を握りしめ、歩を止めなかった。いまさら引き返すことなどできない。目指すは、どんな病をも癒やすという伝説の宝――。病みついた妹のために絶対に必要なものだった。三日前、村の酒場で老騎... 2025.08.04 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #361 お揃いですね 電車の中で、隣に座った女性が俺と同じスマホケースを使っていることに気づいた。(まあ、よくあるデザインだし、偶然か)そう思いながらスマホをいじっていると、その女性がチラリとこちらを見て微笑んだ。「お揃いですね」なんとなく気恥ずかしくなり、「そ... 2025.08.04 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #360 泥だらけの勇者 それは雨上がりの午後のことだった。村外れの道を歩いていると、急に前方の草むらからガサガサという音がして、泥だらけの男が現れた。ぼさぼさの髪、傷だらけで泥まみれの鎧、背中にはいかにも立派な剣。見た目はどう見ても冒険者……いや、それ以上の存在感... 2025.08.03 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #359 夜店の闘魚 夏祭りの金魚すくいは、いつもと変わらない賑やかな光景だった。ちょうちんの淡い明かりが照らす水槽には、赤や黒、オレンジや白の金魚たちがゆらゆら泳いでいる。子どもたちは夢中になってポイを水中に差し込み、慎重に金魚をすくっては歓声を上げた。だが、... 2025.08.03 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #358 コンビニ夜勤は満員御礼 「夜勤って静かで楽だよ」バイト初日にそう言い切った先輩の顔を思い出しながら、タケダはため息をついた。現在、午前0時3分。商店街の端っこにある我らがコンビニ「まるまるマート」。世の中のほとんどが寝静まるこの時間、なぜかこの店だけは常連たちのア... 2025.08.02 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #357 ベルトコンベアーのむこう カシャン、カシャン――鉄と油の匂いに満ちた空間で、単調な音が絶え間なく続いていた。僕の仕事は単純だ。ベルトコンベアーに乗って流れてくる部品に、指定された部品を取り付けるだけ。スパナを握り、ボルトを締め、電動ドライバーでネジを打つ。流れ作業。... 2025.08.02 ちいさな物語怖い話