仕事帰り道でのことだ。急いでいる時は森の横道を通る。いつもなんてことはない田舎道なのだが、その日は違った。静寂の中、不意に低く響く鳴き声が聞こえる。見渡すと木々の間に光るものがあった。恐る恐る近づくと、そこには見たこともない生き物がいた。
体長は猫ほどだが、姿はどこか半透明で、輪郭がぼんやりとしている。大きな目がこちらを見つめ、その目から透明な液体がつたって落ちていた。それが「涙」だと気づくのに時間はかからなかったが、奇妙だったのは、涙が地面に落ちると光を放ちながら消えることだった。
「何なんだ、こいつは……」つぶやいた途端、その生き物が突然口を開いた。「助けて」と聞こえるような声だった。驚いて後ずさるが、背後にも同じような生き物がたくさんいる。どれも同じように半透明で、涙を流していた。
彼らはゆっくりと私を囲み始めた。逃げようとしても、足が動かない。彼らの涙が地面に落ちるたび、なぜか地面が不気味に光る。「なんなんだよ、こいつら!」叫ぶ声も虚しく、やがて視界が白く染まった。
次に気づいたとき、私は森の横道にいた。夢だったのか? しかし妙に地面が近い。四つん這いになっているようだ。そしてなぜか毛だらけの手がうっすらと透け始めている。そっと自分の顔を触ると、流れ落ちる冷たいものがあった。それは、あの生き物たちと同じ透明な涙だった。ぽたりと地面に落ちると光を放ちやがて消えた。胸の内からどうしようもない感情が押し寄せる。口を開くと「助けて」と勝手に声が漏れた。
森の奥から、またあの鳴き声が聞こえる。今はその意味がわかっていた。まだ新しい仲間が必要だ。
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