ちいさな物語

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#266 虹を捨てる場所

「虹ってさ、古くなったらどうなるんだろう?」ある雨上がりの午後、学校の帰り道で、リナがふと呟いた。隣を歩いていたカナは怪訝な顔をして首を傾げる。「虹が古くなるって、どういう意味?」リナは空を見上げながら答えた。「だってさ、虹が消えたあと、そ...
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#265 呪殺、ついに違法化へ

長らく『呪殺』は違法ではなかった。それは単に『科学的に証明できない』という理由で、罪に問えないままだったからだ。それをいいことに呪術師たちは呪術を使っての暗殺や、痴話喧嘩レベルの簡単な報復を高額で請け負い、荒稼ぎをしていた。呪術師たちは表向...
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#264 役に立たない発明

街外れの古いレンガ造りの工房には、奇妙な発明家が住んでいた。彼の名はエミールという。見た目はまさに絵に描いたような『変人発明家』。髪はぼさぼさ、服はいつも油まみれだ。エミールの発明品といえば、例えば『くしゃみする靴』、『泣き出す時計』、『笑...
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#263 窓越しの隣人

僕のデスクは窓際で、隣のビルのオフィスがよく見える。こちらも向こうもガラス張りのオフィスだから、嫌でも互いの様子が目に入った。はじめはなんだかプライバシーが侵害されているようで、いい気分ではなかった。しかし、ある日の午後、ふと目を上げると、...
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#262 塔の果てに咲く音

レオンが塔を見たのは、七歳の春だった。塔は村のはずれにあり、いつからそこにあったのか、誰も正確には知らない。気づいたときには、すでに雲の上まで伸びていた。そう、「伸びた」のだ。空を裂くように立つその塔は、石ではなかった。木のような、骨のよう...
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#261 陰謀論カフェ

駅前の古びた雑居ビルの一階には、怪しいカフェがある。名前は「真実のカフェ」。マスターは口癖のように言った。「世界は陰謀で動いている!」いつも常連客たちはマスターの突拍子もない陰謀論を聞きながら、コーヒーを吹き出して爆笑するのが日課だ。例えば...
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#260 ルームフレグランス

新しい部屋に越してきた夜、友人から小包が届いた。中身は、洒落たガラス瓶に詰められたルームフレグランス。細いリードスティックが数本ついている。そして、「新生活に癒しを」と、メッセージカード。香りはラベンダーと柑橘を混ぜたような、どこか懐かしい...
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#259 ニーチェとフルーチェ

フルーチェを食べているときだけ、ニーチェが話しかけてくる。そんなおかしな現象に初めて気づいたのは、火曜日の午後だった。特に夢もなく、目標もない。大卒なら就職くらいできるだろうと淡々と課題をこなしている自分にとって、フルーチェは唯一の慰めだっ...
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#258 無限リバーシブル株式会社の謎

「おはようございます。リバーシブルでお願いします!」その日も、ぼくは元気に会社の自動ドアをくぐった。
無限リバーシブル株式会社に勤めて三年。だが、いまだに自分が何の仕事をしているのか説明できない。出社すると、エントランスには「表と裏、どちら...
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#257 終わらない階段

目が覚めたとき、私は薄暗い空間にいた。足元には古びた木の階段が続き、上にも下にも終わりが見えない。左右には壁もなく、ただ漆黒の空間が広がるだけ。夢なのか現実なのかわからないまま、私は自然と階段を上り始めていた。一段一段、足を踏みしめるたびに...