ちいさな物語

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#534 折り鶴の悪魔

あの時の話をすると、決まってみんな笑うんだ。「ストレスで頭がおかしくなったんじゃない?」なんてね。でも嘘でも冗談でもない。本当に起きたことなんだ。聞いてほしい。あれは、まだ寒さの残る春先の午後だった。その日、会社で腹の立つことがあった。いや...
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#533 サンドイッチの具材

僕はサンドイッチを作ろうとしていた。パンはふわふわ。レタスはしゃきしゃき。あとは何をはさむか決めるだけだ。たったそれだけ。なのに僕は、異様なほど迷っていた。ハムか。チーズか。卵か。いや、ここは豪華に全部か?しかし全部はさむとはさむというより...
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#532 世界平和戦記

世界戦争が勃発した――とニュースが流れた。けれどキャスターは妙に穏やかで、画面の隅にはなぜかユーモラスな鳩のマスコットがぴょこぴょこと揺れていた。まるでホームビデオの紹介でもしているような画面だ。『速報です。ついに各国が平和的戦争に突入しま...
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#531 恐れるべきもの

幼いころから幽霊が見えると言うと、人は決まって「え、怖くないの?」と聞いてくる。正直、怖いというか――意味がわからない。そもそも本当に幽霊と呼んでいいものなのかもよくわからない。元は生きていた人間という証明がどこにもないし、その「幽霊」自身...
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#530 機械の虫

最初に見つけたのは、庭の鉢植えの脇でした。カナブンくらいの大きさの虫がひっくり返っていて、足をばたつかせていたんです。よくある光景だと思うでしょう?でも、近づいた瞬間、違和感に気づきました。足のつけ根に、小さなネジが見えたんですよ。ネジなん...
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#529 縁切り鋏

骨董屋で縁切り鋏というものを手に入れた。見た目はただの古びた鋏で、刃は少し欠けていた。骨董店の主人の話によると――「その鋏で縁を切りたい人の名前を書いた紙を切るとね、その人の記憶から君が消える。便利だろ?」「便利」という表現が何か違うような...
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#528 異世界ツアー案内人

あ、どうも。僕は異世界旅行社の添乗員をやってる者です。正式名称は「時空観光案内人」。担当はファンタジー世界。だけどまあ、だいたいの人は「ガイドの人」といったらわかりますかね。仕事の内容?一言で言えば、別世界へ行きたい人たちを連れて、安全(※...
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#527 喫茶メルヘン堂

駅前の大型ショッピングモールから少し離れた路地に、「喫茶メルヘン堂」という店がある。昭和のまま時間が止まったような喫茶店で、看板は色あせ、ドアはきしみ、テーブルは小さくて、椅子は座るたびにミシッと悲鳴をあげる。初めてその店を見かけたとき僕は...
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#526 アニマルファンタジー

登山を決行した朝は、ひんやりした空気に満ちていた。俺たち四人は久しぶりに会って、楽しく山を登っていた。大学で出会い、サークル活動を通して仲良くなり、長い時間を一緒に過ごした四人組。就職して半年、ようやく予定が合って登山の計画を立てることが出...
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#525 回転ドアが終わらない

駅ビルの入口にある回転ドアは、ごく普通のガラス製だった。そのときも、いつもと変わらないように見えた。それなのに――用事を済ませた私がドアへ足を踏み入れた瞬間、空気がひやりと反転したような感覚が走った。外は寒いのかもしれないと思いながら、半周...