不思議な話

ちいさな物語

#102 地下墓地のともしび

地下墓地の奥深く、エリアスは静かに暮らしていた。彼は幽霊だったが、生前の記憶はほとんどなく、ただ「優しくありたい」という思いだけが胸に残っていた。墓地には時折、弔いや祈りのために人間が訪れる。エリアスはそんな彼らの肩にそっと手を添えたり、冷...
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#098 遠い砂漠の湖の歌

砂漠の夜は静かだった。風が砂丘をなめる音と、ラクダのかすかな鼻息。カリムは焚き火を見つめながら、遠くから聞こえる不思議な音に耳をすませた。それは水音だった。この砂漠に水場はない。旅人なら誰もが知っている。だが、確かに聞こえる。ざぶん、ざぶん...
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#096 温めますか?

コンビニのレジで、店員の山崎がいつものように尋ねた。夜も遅くなると必ずといっていいほど「温め」が必要なお客がやってくる。そして山崎は「温める」のが嫌いではなかった。たまに失敗もするが、最近は相手の様子をちゃんと見ながら温めれば大きなしくじり...
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#091 運河をゆく箱

夜の運河は静かだった。黒々とした水面を切り裂くように、小さな舟がゆっくりと進む。船頭は無言で櫂を操り、客はじっと足元の箱を見つめていた。木箱は膝ほどの高さで、ずっしりと重そうだ。縄で厳重に縛られており、持ち主の男はそれを自分の手で舟へと運び...
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#087 祖母のわらび餅

夏になると祖母が手作りのわらび餅を作ってくれた。冷たい井戸水で締めたそれは、ぷるんと透き通り、きなこと黒蜜がたっぷりかかっていた。口に入れると、まるで澄んだ水のかたまりのように清らかな味がする。「おばあちゃんのわらび餅って、なんだか夢みたい...
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#083 廃駅の階段

聞いてくれ、俺はただの階段だ。だけど、俺が見た光景を話したら、きっとお前も興味を持つだろう。この廃駅には、いろんな人間が来るんだ。俺はもう使われなくなった駅の階段。錆びた手すりに苔むした段、それが俺の全てだ。何十年も前に列車が通らなくなって...
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#081 転がってゆく先

俺か? 俺はただの空き缶さ。最初はちゃんとした飲み物だった。工場で作られ、店に並び、人間に買われ、そして——飲まれた。そこまではまあ、よくある話だ。問題はその後だ。飲み終わった俺は、ポイッと道端に投げ捨てられてしまった。ガードレールにぶつか...
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#080 死神の鳥

最初に気づいたのは、駅のホームだった。目の前のサラリーマンの頭に、小さな黒い鳥が止まっていた。カラスのように見えるが、もう少し小さい。それにどこか質感が、違う。まるで影が形を成したような、ふわふわとした不確かな存在だった。周囲の人々は誰も気...
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#077 雪山で待つ者

山頂を目指していた私は、突如として吹雪に巻き込まれた。冬山では天候の急変が命取りになることを知っていたが、ここまでひどいとは。油断したと認めざるを得ない。視界は数メートル先も見えず、足を踏み出すたびに雪に沈む。体温が奪われ、指の感覚がなくな...
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#076 回転寿司と回るおじさんの幽霊

回転寿司のレーンに、おじさんが流れていた。寿司の皿に挟まれながら、妙にリラックスした顔をしている。「おっ、トロが来た!」おじさんは隣の皿からトロをつまみ、満足げに頬張った。いや、何食ってんだ。ていうか、なぜ流れてる?俺は周囲を見渡した。だが...