ちいさな物語 #245 金魚すくいと約束 その夏、私は友人とふたり、町はずれの小さな神社で開かれる夏祭りに出かけた。屋台が並び、浴衣姿の人波がざわめく。けれど私たちの目的は、毎年この祭りにだけ現れるという“幻の夜店”だった。「今年こそ、見つけたいね」そう言って、友人の茜は私の手を引... 2025.05.20 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #243 小石のバトン それはただの、小石だった。歩道に落ちた、丸く削られた白い小石。加工されたものであることは一目瞭然。どこかの敷地に敷き詰められていたものを、子どもが拾って遊んでいたのだろう。通行人が意図せずそれを蹴飛ばし、転がった先は、都内の静かな住宅街の交... 2025.05.17 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #240 夢の原液を売る店 「ねえ、あれ見た?」そんな噂からすべては始まった。通学路の途中、古ぼけたレンガ塀の裏に、いつのまにか現れていた露店。店というには奇妙で、店員らしき人物もいない。ただ、古い木の台が置かれ、その上に小瓶が並んでいるだけ。野菜の無人販売所といった... 2025.05.16 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #234 はないちもんめ 「かってうれしい はないちもんめ まけてくやしい はないちもんめ」その歌は、ある日、世界中で流れはじめた。テレビでも、スマートスピーカーでも、コンビニのBGMでも。誰もがどこかで聞いたことのある童謡。でも、それが“合図”だとは、最初は誰も気... 2025.05.13 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #232 午後三時のミルククラウン 午後三時になると、甘い香りが部屋いっぱいに漂う。最初に気づいたのは、休日の午後だった。 ちょうどコーヒーを淹れながら、冷蔵庫にあったプリンを食べようとした瞬間、背後から声がした。「こんにちは、おやつの精霊です!」振り返ると、そこには紅茶色の... 2025.05.12 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #231 水曜日のポケット 「水曜日のポケットには、ちょっとした秘密があるのよ」そう言ったのは、祖母だった。わたしがまだ小学四年生だったころのことだ。祖母とわたしは、古い町にある小さな洋館にふたりで暮らしていた。町の人たちはみんなやさしく、毎日がのどかで、でもすこし退... 2025.05.11 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #229 愛なき者 朝、目覚めたとき、部屋の空気が少し違っていた。テレビをつけるとニュースキャスターがにこやかに言っていた。「おはようございます。愛しています」それを受けて、司会者、ゲストらしき人々も次々に「おはようございます。愛しています」、「愛しています」... 2025.05.10 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #227 うちの神様が一番かわいい 大学の夏休み、久しぶりに実家の神社へ帰省した。「おかえり、悠斗」母が穏やかな笑顔で迎えてくれる。境内の掃除や参拝客の対応に追われる両親の姿は昔と変わらない。しかし、ひとつだけ僕が知らなかったことがあった。それは、うちで祀っている神様について... 2025.05.09 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #225 狐面売りの男 祭りの夜は、人々が浮かれているせいか、普段とは違った空気が漂っている。夏の生温かい風に乗って、屋台から流れてくる甘ったるいベビーカステラの匂いやイカ焼きの香ばしい匂いが鼻をくすぐった。僕はひとりで、人混みの隙間を縫うように歩いていた。毎年こ... 2025.05.08 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #223 眠れぬ夜の博物館 静かな街に、時計台が十二時の鐘を響かせた。月明かりの下、僕は深呼吸をして、そっと博物館の門を押した。ここは、子供の頃から僕が一番好きな場所だった。昼間は人々で賑わい、笑い声と足音が絶えないが、真夜中には何かが起きるという噂が密かに広まってい... 2025.05.07 ちいさな物語不思議な話