ちいさな物語 #122 祖父のビー玉 祖父が亡くなった後、古い木箱の整理をしていると、小さな布袋が出てきた。中には、ひとつのビー玉が入っている。透明なガラスの中に、ゆらめく青と緑の渦が閉じ込められていた。なぜか惹かれてそれを手に取ってみる。そして何気なくのぞき込んだ瞬間、息をの... 2025.03.18 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #113 満月の神渡し 昔々のとある山深い村の話だ。この村には、古くからの掟があった。「満月の夜、決して外へ出てはならぬ」子どもも大人も、この掟を守るのが当たり前だった。理由を尋ねると、年寄りたちは口を揃えて言った。「その夜は神が通る。もし鉢合わせすれば、二度と戻... 2025.03.13 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #112 宙を泳ぐ魚 古びた食堂のカウンターに座り、俺は旬の焼き魚定食を前にした。魚の種類が季節によって変わる人気の定食だ。脂ののった焼き魚が湯気を立て、芳ばしい香りを漂わせている。箸を持ち、ふっくらしたその身をほぐそうとした、その瞬間だった。魚の体が微かに震え... 2025.03.13 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #108 屋上は海の底 「屋上は海の底だよ」 彼女がそう言ったとき、僕は初めて自分の足元に意識を向けた。空に一番近いはずの場所で、足下に波打つ海の気配を感じるというのは、どこか奇妙な感じがした。僕の住むマンションには、奇妙な噂がある。『深夜0時を過ぎた頃、屋上に行... 2025.03.11 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #106 コンビニ仙人 深夜のコンビニには、時々変な客がいる。大声で独り言を言いながらおでんを選ぶおじさん。棚の前で微動だにせず立ち尽くす女子高生。酔っ払ってATMと口論しているサラリーマン。まあ、深夜のコンビニなんてそんなものだ。でも、あの仙人は、もっとおかしい... 2025.03.10 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #104 本棚の迷路と本棚の住人 カズキは、ふと目についた古本屋に立ち寄った。「こんなところに本屋なんてあったっけ?」それは駅前の路地裏にひっそりと佇む店だった。木製の看板にはかすれた文字で「迷文堂」と書かれている。店内に足を踏み入れると、微かにインクと紙の匂いが鼻をくすぐ... 2025.03.09 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #102 地下墓地のともしび 地下墓地の奥深く、エリアスは静かに暮らしていた。彼は幽霊だったが、生前の記憶はほとんどなく、ただ「優しくありたい」という思いだけが胸に残っていた。墓地には時折、弔いや祈りのために人間が訪れる。エリアスはそんな彼らの肩にそっと手を添えたり、冷... 2025.03.08 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #098 遠い砂漠の湖の歌 砂漠の夜は静かだった。風が砂丘をなめる音と、ラクダのかすかな鼻息。カリムは焚き火を見つめながら、遠くから聞こえる不思議な音に耳をすませた。それは水音だった。この砂漠に水場はない。旅人なら誰もが知っている。だが、確かに聞こえる。ざぶん、ざぶん... 2025.03.06 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #096 温めますか? コンビニのレジで、店員の山崎がいつものように尋ねた。夜も遅くなると必ずといっていいほど「温め」が必要なお客がやってくる。そして山崎は「温める」のが嫌いではなかった。たまに失敗もするが、最近は相手の様子をちゃんと見ながら温めれば大きなしくじり... 2025.03.05 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #091 運河をゆく箱 夜の運河は静かだった。黒々とした水面を切り裂くように、小さな舟がゆっくりと進む。船頭は無言で櫂を操り、客はじっと足元の箱を見つめていた。木箱は膝ほどの高さで、ずっしりと重そうだ。縄で厳重に縛られており、持ち主の男はそれを自分の手で舟へと運び... 2025.03.02 ちいさな物語不思議な話