ちいさな物語 #201 新しい選択 「消える」という選択肢が生まれて、もう十年が経つ。それは革命だった。誰にも迷惑をかけず、自分の存在をそっとこの世界から取り除くことができる。特許技術は《ゼロ・プロトコル》と呼ばれ、政府も企業もこぞって推奨した。いわゆる「無敵の人」による事故... 2025.04.26 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #200 チワワのいる部屋 「本当に、この家賃でいいんですか?」僕が何度目かの確認をすると、不動産屋の男性はやや面倒くさそうに頷いた。「はいはい。告知事項ありってだけで、リノベーションしてるから中はきれいだし、立地もいいでしょ」見た瞬間、即決だった。駅徒歩三分、2DK... 2025.04.26 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #197 逆さまの雪 その町では、雪が降らない代わりに、雪があがるという。最初にその話を聞いたとき、私は冗談か、あるいは詩的な比喩のようなものだと思った。だが、列車を降りたその瞬間、私はそれを目撃した。駅のホームで立ち止まり、思わず空を見上げた。確かにそれは、地... 2025.04.24 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #188 呪われた黄金都市 父親も母親も仕事で忙しく、さみしさにかられた少年はふと呟いた。「ねえ、神様、空からお金が降ってくれば、僕はお父さんとお母さんと、毎日一緒にいられるのに」翌朝、本当にそれが現実となった。はじめは誰もが夢だと思った。だが窓を開けると黄金の硬貨が... 2025.04.20 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #186 風の市と少年 「まるで自分の影とだけ話しているみたいだった」市でよく見かける女は、彼をそう表現した。レアという名の少年が風の市に現れたのは、南の草原に乾いた季節風が吹きはじめる頃だった。市といっても常設の町ではない。風が止んだときだけ開かれる移動市で、誰... 2025.04.19 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #185 妖精の願いごと 駅へと続く細い道を歩いていると、道端に潰れかけたペットボトルが転がっていた。普段なら気にも留めないけれど、その日はなぜか、そのボトルがやけに輝いて見えたのだ。妙に気になって、拾い上げてみる。ペットボトルの中を覗くと、小さな光が揺れていた。驚... 2025.04.18 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #183 山のちからくらべ これはの、はるか昔の話じゃ。今じゃもう、誰も知らんような時代、山にも気持ちっちゅうもんがあったんじゃよ。いや、今もあるが、人間の方に感じる力がのうなったんじゃ。あるところに、二つの山が向かい合っておった。ひとつは背の高いおおたけ山(おおたけ... 2025.04.17 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #182 千年の庭 この国では、生まれた家の庭にどんな木が生えているかで、人の力が決まる。紅葉の家系は火を扱い、柊の家系は霊を祓う。だがその力は、木の状態によって左右されるため、庭木の世話は代々の重要な務めだった。ユウトの家の庭には、樹齢千年を超えるかしの巨木... 2025.04.17 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #180 大きな町と小さなドア その町には、「小さすぎるドア」があった。壁のように広がる白い建物の中央に、子どもでも肩をすぼめなければ通れないほどの、異様に狭い扉。誰もその先を見たことがない。なぜなら、その町に暮らす人々は、みなとても大きかったからだ。大きい——それは体格... 2025.04.16 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #178 君を観測するまで、君は存在しなかった ぼくは、毎朝同じ夢を見る。灰色の霧が立ちこめる部屋。窓の外にはなにもない。ただ、光のようなものが、ぼんやりとそこにあるだけ。その部屋の中央に、彼女は座っている。黒髪の、透き通るような肌の、憂いを含んだ目をした少女。名前も、年齢も、なにもわか... 2025.04.15 ちいさな物語不思議な話