怖い話

ちいさな物語

#085 11時43分

このマンションに引っ越してきて、一ヶ月が経つ。仕事にも慣れ、夜は静かに過ごせるかと思っていた。だが、あることが気になっている。——毎晩、天井から音がするのだ。最初は気にしなかった。マンションなら生活音が響くのは仕方がない。だが、不思議なこと...
ちいさな物語

#062 回覧板の掟

「回覧板が来たら、すぐに回してくださいね」このマンションに引っ越してきたばかりの俺に、管理人は念を押すように言った。何度も、何度も。まるで、それが最も重要なルールであるかのように。よっぽどマナーのない人がいるんだろうかと少し不安になる。しか...
ちいさな物語

#054 隣の墓

祖母の墓参りに行くたび、気になることがあった。隣の墓が、いつも荒れている。雑草が生い茂り、墓石には鳥の糞がこびりついていた。供え物もなく、線香の燃えた跡すらない。「誰もお墓参りに来ないのかな……」私は何とはなしに、その墓の前にしゃがんだ。墓...
ちいさな物語

#049 深夜2時の怪奇配信

俺の名前は佐々木翔。登録者12人の弱小YouTuberだ。しかも、その12人のうち半分はリアルな知り合い。お付き合いとして登録してくれたものの、見てないのは分かっている。でも俺は、毎晩ひっそりと配信を続けていた。俺のチャンネル名は「翔のミッ...
ちいさな物語

#022 新法

ええ? 異常がないってどういうこと?? 頭痛がするんだよ、先生。えむあーる、何? もっと詳しい検査をするってこと? いやでもそういうのって高いんでしょ。病院は金儲けばっかり考えてすぐそういうこというからヤになるよ。今日もようやく仕事抜けて来...
ちいさな物語

#015  真夜中のキッチンカー

深夜、静まり返った商店街の一角に、いつの間にか現れた古びたキッチンカー。白いペンキが剥げ落ち、看板には「Midnight Meals」とだけ書かれている。客など誰一人いないはずの時間に、車内のランプだけがぼんやりと灯り、窓口には髪の長い往年...
ちいさな物語

#013 心霊スポットでの心得

高校の頃、不良仲間と「やばい場所」を巡るのが流行ってたんだ。俺たちは度胸試しがてら、地元で有名な廃病院に行くことにした。夜中の2時、懐中電灯を片手に病院の門をよじ登って侵入した。中はカビ臭くて、壁には落書きだらけだった。どの落書きもよくある...
ちいさな物語

#010 狐火そば

江戸時代、深川の外れに「狐火そば」というそば屋があった。その名は、店先に夜ごと灯る不思議な青白い光に由来する。店主の弥助といっては寡黙で愛想はなかったが、打つ蕎麦は江戸一だと皆「噂で」知っていた。なぜならそれを食べた者に直接聞いたわけではな...
ちいさな物語

#003 そっとしておけば

薄暗い蔵の片隅に、埃を被った古い木箱が置かれていた。箱の表面には奇妙な紋様が彫られ、鍵穴には古びた錠が掛かっている。この蔵を相続した青年直人は、祖父の遺品を整理している最中にその箱を見つけた。箱には紙切れが貼られ、「決して開けるな」とだけ書...
ちいさな物語

#002 永遠の月曜日

月曜日の朝、吉田は重い体を引きずるようにしてオフィスに向かった。週末は一瞬で過ぎ去り、気づけば始まる憂鬱な1週間。今週もまた、終わりの見えない残業と上司の叱責が待っているに違いない。「これがまだまだ続くのか……」まだ二十代の吉田にとって先は...