怖い話

ちいさな物語

#357 ベルトコンベアーのむこう

カシャン、カシャン――鉄と油の匂いに満ちた空間で、単調な音が絶え間なく続いていた。僕の仕事は単純だ。ベルトコンベアーに乗って流れてくる部品に、指定された部品を取り付けるだけ。スパナを握り、ボルトを締め、電動ドライバーでネジを打つ。流れ作業。...
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#355 誰も知らない

「なあ、これ見てみろよ」俺たちはスマホの画面を順番に覗き込んだ。山奥のキャンプ場の写真。週末に集まれるメンバーで遊びに行った。社会人になっても続く数人のグループで、たまには自然に触れようと計画した、いつもの遊びの延長。それには確か五人で行っ...
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#344 赤いピンの目的地

大学生の翔太は、夜更かしをしながらネットを眺めていた。すると、スマホの通知が鳴り、マップアプリから「あなたにおすすめの場所」という通知が届いた。興味本位でアプリを開くと、見覚えのない山間部に赤いピンが立っている。翔太は地図を拡大したが、地名...
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#341 屋上の笑い声

あれは高校二年の夏の合宿でのことだった。うちのバスケ部は毎年、校内合宿をしていて、その日は夜遅くまで体育館で練習していたんだ。ようやく練習が終わり、片付けをしているときだった。静まり返った校舎の方から、奇妙な音が聞こえてきた。「……ん?」耳...
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#338 交差点の悪魔

「会社の近くの大きい交差点、あの信号機の上さ、知ってるか? 夜になると、何かがいるんだよ。じっと交差点を見下ろしてる“あいつ”がさ」今思えば、同僚にそう言われて、そこを確認したことがすべての元凶だった。深夜の交差点は不気味なほど静かだ。その...
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#335 子供の森

バス停の向かい、小さな児童公園の入り口に、白く四角い板が一本の柱にくくりつけられている。文字も絵もない。ただの真っ白な看板だ。広告の準備中かと思ったが、数日経っても何も書き加えられることはなかった。「何か建つのかな」「誰かのいたずら?」通り...
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#331 隣の子供

新しく引っ越したアパートは、築年数こそ古いが部屋も綺麗で家賃も安かった。駅からも近く、周辺環境も申し分ない。「掘り出し物だな」そう思って喜んでいたのも束の間だった。引っ越して数日後、夜遅く仕事から帰り、ベッドに横たわった時のことだ。隣の部屋...
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#328 怪談の食卓

その街の路地裏には、看板のない小さな食堂があるという。この食堂の主人は、『怪談ハンター』と呼ばれる奇妙な男だ。「お客さん、怖い話はお好きですか?」店主は、訪れた客にいつもそんなふうに問いかけるらしい。――ある蒸し暑い夏の日、私は偶然その食堂...
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#323 共鳴の檻

それは、たまたま見つけた小さなオンラインサロンだった。「ここなら、あなたの本当の声が届く」そんな文句に惹かれ、俺はそのサロンに足を踏み入れた。最初は、心地よかった。誰もが俺の考えに賛同し、意見を交換するたびに「わかる」「その通りだ」「もっと...
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#321 赤い目の女

それは突然、小さな村を襲った。ある日、最初の犠牲者が出た。農作業中だった老夫婦の夫が、突然苦しみだし、その日の夜には息を引き取ったのだ。死因はわからず、村でただ一人の医師である私も首をかしげるばかりだった。ただ、死の間際に彼の体には不気味な...