変な話

ちいさな物語

#194 片付かない部屋

「本当に、ごめんね。たぶん、ひとりじゃ無理だと思って」そう言って僕を呼んだのは、中学時代からの同級生・美沙だった。学生時代から散らかし魔だった彼女の部屋が、どうしようもなく荒れてきたという。興味本位で訪ねたワンルームは、予想以上の惨状だった...
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#193 散歩の達人

僕の夢はシンプルだった。何か一つの道を極めること。今、目指しているのは散歩の達人。人間の散歩、犬の散歩、どんな散歩でも完璧にこなしたかった。ある日、究極の散歩道があると噂される森を訪れた。入り口には『あらゆる散歩者を歓迎する』という心躍る看...
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#192 手袋、怒りの暴走

冬の公園のベンチに、ぽつんと落ちていた赤い手袋。それは右手だけのさみしい存在だった。「ご主人はきっとすぐに戻ってくる!」片手袋は前向きだった。だが、一日経ち、二日経ち、ついには一週間経っても、彼女の持ち主は姿を見せなかった。通りかかった老婦...
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#189 コンビニ弁当マニアの俺がつぶやいていくぜ?

ちょっと語らせてくれ。俺、コンビニ弁当が人生の全てみたいなコンビニマニアなわけよ? 今日は特に俺の推し『ハピマ』『デイフレッシュ』『サンマート』の弁当の魅力を爆速で語ってくぞ。まず『ハピマ』な。ここはもう完全に弁当界のAppleよ。革新性が...
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#179 生贄募集、時給1500円〜(交通費支給)

「生贄バイト、急募。時給1500円〜。未経験歓迎」そんな求人広告を見たタケル(28・フリーター)は思った。「なんか宗教系っぽいけど、時給いいし、とりあえず応募しとくか」面接会場は宗教法人なんたらと書かれた怪しげな事務所。面接官は無言で壺を磨...
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#177 納豆の糸

納豆が好きだ。昔から毎朝、白いご飯にかけて食べるのが習慣だ。混ぜる回数はきっちり三十回と決めていて、醤油は少なめ、ネギはたっぷり。今日も同じように朝食を楽しむはずだった。その日、納豆の糸が妙に丈夫だった。器から口へ運ぶ途中で切れることなく、...
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#174 世界一わかりやすい靴下のはき方

「おぬし、靴下の正しいはき方を知っておるか?」町の片隅にある古びた喫茶店。コーヒーをすする私に、向かいの席の老人がそう問いかけた。「え? 靴下のはき方ですか?」「そうじゃ。ただ足を突っ込めばいいと思うておるじゃろう?」当たり前じゃないか。靴...
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#169 世界がゲームになった日

いつも通りの朝だったはずだ。けれど窓を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。通勤中のサラリーマン二人が突如、道端で格闘ゲームのキャラクターのように激しく殴り合い始めたのだ。「光弾拳!」ネクタイを締めた男性が叫ぶと、実際に手から光るエネ...
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#164 終わらないエスカレーター

その日も私はいつものように駅へ向かった。改札を通り、乗り慣れたエスカレーターに足をかける。足元には、「お気をつけてご利用ください」というありふれた注意書きがある。無意識のうちに視線を下げ、ぼんやりとその文字を眺めていた。ふと、妙に長い時間エ...
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#162 名探偵コーディネーター

世間には数多くの名探偵がいるが、彼らが活躍できるのは偶然ではない。実は私のような、探偵が活躍できるよう事件を演出する裏方「事件コーディネーター」が活躍しているからなのだ。探偵にも色々なタイプがいる。心理戦が得意な者、緻密な科学的捜査を好む者...